アヴェ・マリア【胡蝶しのぶ】 (ページ4)

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通話を終えて右腕をベッドの中に戻すと、背後から童磨が私をゆるやかに抱き寄せる。

「誰？」

「真衣っていう友達の、旦那さん」

「こんな時間にどうしたの」

童磨が腰から腹を撫でた掌で、乳房を押し包む。

もう1回しても良いし、このまま眠っても良いというところで、電話があったのだ。

待つ間にどちらにするか決めたのかと思ったのに、童磨の手の動きは穏やかなままだ。

「真衣の様子が変らしいです」

中途半端に触られるのは、好きじゃない。

終わりにするなら眠らせてほしいし、続けるのなら集中して楽しみたい。

「童磨。
明日も仕事があるのでしょう？」

寝返りを打って、童磨の方に向き直る。

一時離れた童磨の手が、今度は背中を滑る。

「うん・・・。
変って、どういう風に？」

「『部屋に悪霊がいる』と言うらしいです。
元から変わった子だったから、気にする必要はないと思うけれど」

「悪霊」

童磨は背を抱く手を止めた。

そしてきっかり3秒間、至近距離で私の目を覗き込む。

明かりを点けたままの部屋。

〝悪霊〟という言葉に対する嘲笑も驚きも疑問もない童磨の目は、ただ七色に輝くだけだ。

3秒の後、その美しく輝く瞳に欲望の膜が張っていくのが分かった。

「上に乗って、(相手の名前)ちゃん」

この男の欲の契機は、未だに良く分からない。

そう思いながらも、童磨がベッドに仰向けになるのに合わせ、その体に乗り上がった。

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客に声を掛けられない限り、こちらからは近づかない。

求められれば着回しのコツや、材質や洗濯方法から世間話まで、ありとあらゆる話題に応じる。

初めての客には、心ゆくまで服に触れてもらう。

その間に服に込められた物語や、多くの人の手を経て1つの形に結晶するまでの来歴を、さりげなく述べる。

顔見知りの客には、これまでに購入した服の系統を思い浮かべながら、選択のヒントを控えめに提示する。

まるで聖なる言葉を書き連ねた、尊い書物のように。

これまであった事とこれから起こりうる事を詩に似た曖昧さで綴り、何通りもの解釈を相手に許す。

午前中の接客を終え、昼休みに店を覗きに来る会社員たちの波も引いた頃、灰色の背広を着た男がやって来た。

童磨は早めに仕事が終わると言っていたし、私は明日は休みだし、今夜は帰ったら冷蔵庫の残り物で鍋にしよう。