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「光が射している。
何て美しいのかしら・・・」
同じ物を見ようと真衣の指の先を辿っても、私の目には、どうしたって光など映らない。
「どこですか、真衣。
私にはよく分からない。
ねえ、教えて」
私が必死に呼びかけても、真衣は答えない。
確信に満ちて1点を見つめたまま、上流へ向かって数歩進み、次いで見えない力に後押しされるように走り出す。
「待って真衣!」
黒いセーターはすぐ闇に紛れてしまう。
川に落ちたのかと思ったが、そうではなかった。
真衣は小さな橋を渡って、森を目指しているのだ。
走って後に続こうとして、足がもつれた。
薄い生地のロングスカートが纏わりついて邪魔だ。
ようやく追いついた紀村由雄が「暗くて危ない。僕が行きます」と川を越えて行った。
その姿もすぐ消える。
あんたに何ができる。
真衣がどんなに純粋に愛していたか、それを知らずに享受するだけだったくせに。
知ろうともせず、その激しさをただれ恐るだけだったくせに。
こんな風に考えるなんて、私はおかしい。
おかしいと分かっているのに、紀村由雄を憎悪する気持ちを抑えることが出来ない。
かつて空から雪崩落ちて、真衣を包んだ聖なる光。
それとよく似た濁流がほとばしり、隠されていた真実が夜の中で明らかになる。
堰き止められながら、いつか溢れ出し押し流そうと私を待っていた物が、明らかになる。
「しのぶちゃん、紀村さんに任せよう。
行っちゃ駄目だ」
肩を掴む童磨の手を、私は身を捩って振り解こうとした。
「私、真衣が好き」
「うん」
「好きなんです」
「うん」
童磨の瞳が、私の中から浮かび上がった物の正体をハッキリと見定めていた。
真衣はまだ戻って来ない。
やはり、あの男には出来ないのだ。
真衣を連れ戻すことも、真衣と同じ場所まで降りて行くことも。
浮遊する魂をこの世に繋ぎ止めたいと願う強さで、童磨がどんなに手を握ってくれようとも、私は行く。
求めても与えられず、探しても見出せず、門を叩いても開かれることのない道を。
そうだ、私は恋をしている。
「真衣!!」
叫ぶように呼んだ。
夜を流れる水の音。
真衣に『おやすみ』と言われ、もう1度ベッドに戻ったあの時から、私はずっと夢の中にいるのだ。
永遠に終わることのない、夢の中に。
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作者名:真 | 作成日時:2022年9月28日 16時