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セーターだけで車外へ出た真衣を留め、私は自分のコートを着せる。
「あまり体を冷やすのはオススメできません」
真衣は黙って頷いた。
真衣と一緒にトイレへ行く。
深夜の女子トイレは、ひと気が無かった。
春夏物の服でこんな所にいる自分が、酷く間抜けに思えた。
用を済ませ、並んで洗面台の前に立つ。
白々とした空間で、真衣は俯き加減に手を洗った。
トイレから出ると、童磨が煙草を吸っていた。
その側で紀村由雄が何をするでもなく、ただぼんやりと立っている。
私は2人の横で立ち止まったが、真衣は柱を避ける時のように視線をやりもせず、停めてある車へ真っ直ぐ戻る。
「このまま俺たちが勝手に帰ったら、彼女怒るだろうなあ」
童磨が言った。
「ま、帰りようがないんだけど」
「すみません」
紀村由雄が謝った。
私は煙草を持って来なかったので、童磨から1本貰って吸う。
「童磨、どうしてついて来たんです。
どう考えても、今夜中に帰れませんよ」
「俺は出勤しなきゃならない所があるわけじゃないし。
しのぶちゃんも明日・・・もう今日か、今日は休みでしょ?
急に思い立って旅行してると思えばいいじゃない」
「すみません」と、紀村由雄がまた言った。
この男の、蜃気楼のように実態のない謝罪を聞くのは何度目だろう。
「紀村さんはどうするの?」
「朝になったら、会社に欠勤の連絡をします」
煙草を灰皿に落としながら童磨が聞くと、紀村由雄は悄然と背中を丸めて呟いた。
「どうしてこんな事になっちゃったのかな」
他人事みたいに嘆いている場合か。
私は煙草をねじ消した。
紀村由雄の全ての言葉、全ての動作が、不快な刺激となって私を苛立たせる。
きっと相性が悪いのだ。
童磨は車に向かいながら「奥さんは本気で信じてるの?」と言った。
「何をです」
紀村由雄が小走りで童磨に並ぶ。
会話に加わりたくなかったから、私は少し遅れて2人の後を歩いた。
「神の子を妊娠したーーと」
「さあ・・・」
「奥さんは、他にも言いたいことがあるように見えるけど」
紀村義雄は「どうなんでしょうね」と首を傾げ、さっさと後部座席に乗り込んで、ドアを閉めた。
私と童磨は反対側のドアを目指すべく、車の前をゆっくり横切る。
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作者名:真 | 作成日時:2022年9月28日 16時