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真衣がおかしいのは昔からだ。
通っていた学校にはお御堂と呼ばれる場所があった。
正面の壁には、十字架にかけられたキリスト像。
天井は高くドーム型になっていて、窓には全てステンドグラスが嵌め込まれている。
幼子を抱く青い衣を纏った聖母マリア。
その足元に咲き乱れる白百合の花。
神父が煌びやかな衣装に身を包み、粛々と儀式を進める。
信者であるなしに関わらず、集められた全校生徒がそれを見守る。
ミサは�犁啓悪瓩澄�
信仰を目に見える形で表現するために練り上げられた、単なる式典。
多くの宗教行事がそうであるように、日常に組み込まれ形骸化した風習。
特別な何かを、ミサに見出すことは難しかった。
もう何百回となく唱えられたであろう形式通りの言葉に、神父の魂がこもっていないと感じられる瞬間が確かにあった。
それも当然だろう。
組織化し体制を整えた儀式を、穏やかに日常に滑り込ませるのが、多くの信者を擁するための第1歩なのだから。
毎日を神秘的な恍惚の中に過ごす人がいるとしたら、その方が異常なのだ。
だが、真衣は違った。
信者でもないのに心を込めて聖歌を歌い「主は皆さんと共に」という神父の言葉を受け、誰よりも大きな声で「また司祭と共に」と返した。
ミサが「聖なるかな、聖なるかな、万軍の神たる主」のところまで来ると、真衣はもう駄目だった。
頬を紅潮させ、エクスタシーの寸前みたいに身を震わせる。
真衣が倒れるんじゃないかと、隣に立っている私は気が気じゃなかった。
実際、真衣は3回に1回は倒れた。
神父が滑らかに音もなく、銀の器を卓上に用意する。
「主イエスは進んで受難に向かう前にパンを取り、感謝を捧げ、割って弟子に与えて仰せになりました」
言葉に合わせて、丸いえびせんのような形をした小さく薄いパンを、銀器から取って両手で掲げる神父。
「みな、これを取って食べなさい。
これは貴方がたのために渡される、私の体」
真衣は自分の両手を強く組み、食い入るようにパンを見つめる。
「食事の終わりに同じように杯を取り、感謝を捧げ、弟子に与えて仰せになりました。
みな、これを受けて飲みなさい。
これは私の血の杯。
あなた方と多くの人のために流されて、罪の許しとなる、新しい永遠の契約の血である」
語尾には芝居がかった余韻。
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作者名：真 | 作成日時：2022年9月28日 16時
