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「いい加減にして。
うちは身の上相談所じゃなくて、お菓子屋さんなんだから」


イートインスペースの椅子に、真衣は高校時代の同級生ーー富士峰と座っていた。


「僕、どうしよう」

「知ったこっちゃないわよ」


真衣は富士峰の言葉にぶつくさ相槌を打っていたが、富士峰は聞いているのか否か、ぼんやりしたままだ。

そこへドアベルを鳴らして、玄師が散歩から帰ってきた。


「おや、富士峰くん。
久しぶりですね」

「はあ・・・どうも」

「インドのお土産を持ってきてくれて以来ですね」

「はあ・・・そうですかね」

「乳粥が懐かしくなったんですか?
ジャポニカ米でよければ、すぐ作れますよ。
・・・どうしたんですか、いつもに増して素っ頓狂な顔をして」

「はあ・・・そうですね」

「愉快な顔とも言えます」


玄師は富士峰の反応を楽しんでいたが、真衣はイライラと2人の言葉を切った。


「富士峰はいつだって変です!
それより玄師さん、コイツ相談があるって言うんです」

「はあ・・・そうなんです」


玄師は面白いおもちゃを発見した子供のように富士峰を見下ろす。


「今日は相談なの?
お菓子以外の何かをお求めかな?」

「はあ・・・何だっけ」


真衣が椅子を鳴らして立ち上がり、テーブルを両手でバン!と叩く。


「いい加減に目を覚まさんか、この色ボケ!」

「はあ・・・ごめん」


富士峰のぼんやりと呆れた表情に真衣のイライラはますます高まり、顔が真っ赤になっていく。

玄師はそれも面白そうに眺めた。


「真衣さん、そう興奮しないで。
富士峰くんがボケてるのは、今に始まったことじゃないでしょう。
それより、色ボケって何事ですか?」

「一目惚れしたんですって」


富士峰の頬がぽっと赤く染まる。


「そうなんです・・・。
天使に出会ってしまったんです」


富士峰の顔色がさっと暗くなる。


「僕の手なんかが届かない、遠い空の天使に」


玄師は富士峰の顔色の変化を面白そうに眺めている。

真衣は先に進みそうにない2人の会話を、溜息で吹き飛ばした。


「富士峰、花嫁さんに恋しちゃったんですって」

「そうなんです・・・。
彼女は教会の扉を開いて出て来て、そこで躓いたんです。
僕がとっさに手を伸ばして、彼女が僕の手に掴まって・・・。
ああああ」

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作者名: | 作成日時:2022年7月16日 23時

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