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「どうかなさいましたか」
「え？」
「溜息を吐かれていたようでしたから」
女性は照れて俯いた。
「聞こえちゃいましたか。
恥ずかしい」
真衣は黙って女性の側に立つ。
女性はコーヒーをひと口飲むと、苦笑いして口を開いた。
「私、駄目なんです。
欲望に勝てなくて。
今日もダイエットしようって決めたばかりなのに、お菓子屋さんを見ると入りたくて入りたくて。
とうとう入っちゃって、しかも大きなモンブランを食べちゃって。
こんなだから太るんだって、分かってるんですけど」
「後悔はストレスになるそうです。
ストレスはダイエットの天敵ですよ」
女性は苦笑いのまま、真衣の言葉に頷き返す。
「せっかく美味しそうに食べて下さったんですもの。
後悔しないで、明日に向かった方が良いですよ」
「明日ねえ。
明日は明日でまた美味しい物に目が眩むのよ、これが」
女性の言葉に真衣も同意した。
「分かります、分かりますとも！
美味しい物を作ってくれる人は神様です。
けど、同時に悪魔でもあるんですよねえ」
「そうなのよ！
愛しい悪魔よね」
カランカランという音に扉を見ると、玄師が配達から帰ってきたところだった。
女性は途端にぼうっとして、玄師の顔から視線が動かなくなる。
テーブルの上の大きなケーキの容器を見た玄師は、心から滲み出たような笑顔で女性を見つめる。
女性はパッと目を逸らした。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり」
そう言い置いて厨房に入っていく玄師の背中を、女性はまた、ぽうっと見つめる。
「凄い・・・。
あんな素敵な男の人、初めて見た」
「当店の店主です。
悪魔の1人ですよ」
女性は厨房の方に目を向けたまま呟いた。
「あんな悪魔なら、魂を捧げても良いわ」
・
・
「玄師さん、ご予約です」
「さっきのお客様かな？」
「はい、長井様です。
ルバーブのクランブルケーキのご注文です」
「クランブルケーキ。
ウチでは出した事ないね」
「�爛�ランブル�瓩辰討匹ΔいΠ嫐�ですか？」
「�犧佞��瓩箸いΠ嫐�の英語ですね。
その名の通り、生地は纏まらず砕けていきます。
表面はそぼろ状だけど、ルバーブの水気と混ざると生地として纏まるんだ。
しっとりした下層の生地とサクサクとした上層のクランブル生地のコントラストが面白いケーキだよ。
ところでご注文はワンホール？」
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作者名：真 | 作成日時：2022年7月16日 23時
