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チョコレート枠の中にゼリーを詰め、板状のチョコレートで蓋をして糊付けもチョコレートでする。
「なんだかチョコ細工ですね」
「来年はチョコレートでお城でも作ろうか」
「良いかもしれません！
私、設計図書きますね！」
真衣はいそいそと店舗に戻ると、チラシの裏になかなか上手な城の絵を描き始めた。
「いくらなんでも気が早いですよ」
子供のようにはしゃぐ真衣に苦笑しながらも、玄師の作業の手は止まらない。
薔薇の香りは密やかに、次々とチョコレートの中に隠されていった。
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「・・・・・・」
ショーケースの前で固まったまま、その男性客は既に30分立ち尽くしていた。
品の良いスーツに身を包み、お洒落な髪型の40代手前くらいに見えるその男性は、一見するとイイ男だ。
それなのに、どこか残念な雰囲気を纏っている。
そんな事を考えながら、真衣は作り笑顔の頬が限界を迎え、ピクピクと頬が引き攣ってきたことを自覚した。
サラリーマンの客は珍しくない。
商店街の中でも駅にほど近いこの菓子店は、家庭への手土産は勿論、会社で取引先への心遣いとして使われることも多い。
今回もそういう客だろうと当たりを付け、領収書を書く準備を済ませた真衣だった、が。
「・・・・・・」
サラリーマンはピクリとも動かず、俯き加減にショーケースの中のチョコレートを睨み付けている。
街はまさにバレンタイン一色。
店頭にはチョコレートが山と積まれ、デパートの催事場では有名パティシエが実演付きで芸術品と見紛うほどのチョコレートを作り上げている。
当店でも例に漏れず、チョコレートの品揃えを増やしていた。
サラリーマンは動かない。
カランカランと扉のベルを鳴らして、玄師が日課になっている放浪から帰ってきた。
普段ならサボりに出ていた玄師にお小言を繰り出す真衣だが、今日は違った。
「玄師さ・・・店長、お帰りなさい！」
真衣はショーケースに両手をついて身を乗り出し、玄師を歓迎した。
熱烈歓迎された玄師は、キョトンとして立ち止まる。
真衣はこっそり客のサラリーマンを指差した。
「いらっしゃいませ」
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作者名：真 | 作成日時：2022年7月16日 23時
