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真衣は口をもぐもぐさせながら智美の服を引っ張った。
「バラのおはな、もっと食べたい」
「じゃあお誕生日ケーキは、フランクフルタークランツにしよう」
お爺さんは真衣のために、ケーキを可愛らしいピンクの箱に入れてくれた。
箱にリボンをかけているのを待っていると、店の奥から段ボールを抱えた少年が出てくる。
「いらっしゃいませ」
礼儀正しく姿勢良く挨拶する男の子の律儀さに、智美は感心した。
中学生くらいで、お爺さんと同じ白い服を着ている。
顔立ちもどこかお爺さんに似ていて、ミステリアスな雰囲気で唇がセクシーだ。
この子、将来は絶対イケメンになるわ。
背は高いが骨格がまだ大人になりきれておらず、白い服はサイズが合っていなかった。
少年は段ボールを置いて真衣とお喋りをしてくれた。
少年の優しげな笑顔に、真衣は目を奪われた。
「こんにちは」
「・・・こんにちは」
真衣は恥ずかしくて、俯きがちに返事をした。
「初めまして。
俺は米津玄師と言います。
キミは?」
「久美真衣です」
「何歳?」
真衣は指を4本立てて、慌ててもう1本付け足した。
「もしかして、今日が誕生日なの?」
「うん」
話をしている子供たちを微笑ましく目の端に見ながら、智美は優しい目で少年を見つめるお爺さんに尋ねた。
「お孫さんですか?」
「ええ。
いつも店を手伝ってくれます」
「将来有望な跡継ぎがいて安心ですね」
「そうですね。
ですが、孫にはもっと広い世界を見てほしいのです」
「広い世界?」
智美が尋ねると、お爺さんは両手でショーケースの端から端までを辿ってみせた。
「ドイツ菓子の世界だけで、あの子は生きているから。
私がもっと色々なことを教えてやればいいのだが、私の世界は狭くてね」
「でも、ドイツ菓子の世界は歴史もあって深いじゃないですか」
「確かにドイツの歴史は古い。
実は私、幼い頃ドイツに住んでいたんです。
だから日本に帰って来た時、日本には日本の、ドイツにはドイツの良いところが沢山あるのに気づいた」
智美は頷く。
「だから孫には、広い世界を見てほしい。
それぞれの国に、沢山の素晴らしいところがあるのを知ってほしい」
「その思い、俺は受け継いでるよ」
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作者名:井原 | 作成日時:2022年11月24日 22時