検索窓
今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:1,830 hit

47 ページ47

真衣は口をもぐもぐさせながら智美の服を引っ張った。




「バラのおはな、もっと食べたい」



「じゃあお誕生日ケーキは、フランクフルタークランツにしよう」




お爺さんは真衣のために、ケーキを可愛らしいピンクの箱に入れてくれた。



箱にリボンをかけているのを待っていると、店の奥から段ボールを抱えた少年が出てくる。




「いらっしゃいませ」




礼儀正しく姿勢良く挨拶する男の子の律儀さに、智美は感心した。



中学生くらいで、お爺さんと同じ白い服を着ている。



顔立ちもどこかお爺さんに似ていて、ミステリアスな雰囲気で唇がセクシーだ。



この子、将来は絶対イケメンになるわ。



背は高いが骨格がまだ大人になりきれておらず、白い服はサイズが合っていなかった。



少年は段ボールを置いて真衣とお喋りをしてくれた。



少年の優しげな笑顔に、真衣は目を奪われた。




「こんにちは」



「・・・こんにちは」



真衣は恥ずかしくて、俯きがちに返事をした。



「初めまして。
俺は米津玄師と言います。
キミは?」



「久美真衣です」



「何歳?」




真衣は指を4本立てて、慌ててもう1本付け足した。




「もしかして、今日が誕生日なの?」



「うん」




話をしている子供たちを微笑ましく目の端に見ながら、智美は優しい目で少年を見つめるお爺さんに尋ねた。



「お孫さんですか?」



「ええ。
いつも店を手伝ってくれます」



「将来有望な跡継ぎがいて安心ですね」



「そうですね。
ですが、孫にはもっと広い世界を見てほしいのです」



「広い世界?」




智美が尋ねると、お爺さんは両手でショーケースの端から端までを辿ってみせた。



「ドイツ菓子の世界だけで、あの子は生きているから。
私がもっと色々なことを教えてやればいいのだが、私の世界は狭くてね」



「でも、ドイツ菓子の世界は歴史もあって深いじゃないですか」



「確かにドイツの歴史は古い。
実は私、幼い頃ドイツに住んでいたんです。
だから日本に帰って来た時、日本には日本の、ドイツにはドイツの良いところが沢山あるのに気づいた」




智美は頷く。




「だから孫には、広い世界を見てほしい。
それぞれの国に、沢山の素晴らしいところがあるのを知ってほしい」



「その思い、俺は受け継いでるよ」

48→←46



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 0.0/10 (0 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:井原 | 作成日時:2022年11月24日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。