29 ページ29
・
「それって本当なの？」
真衣はイートインスペースの椅子に座って、富士峰亨の話を聞いていた。
その間、何度も何度も真偽を疑う真衣に、富士峰は何度も何度も繰り返し訴え続けていた。
「本当に！
僕は！
洋子さんと！
お付き合いを続けています！！」
1語1語を区切りながら、拳を握り締めて力説する富士峰の常にない真剣さに、真衣はやっと信じる気になった。
「分かった。
信じるから、それ以上顔を近づけないで」
迫り来る富士峰の顔をお盆で防ぎながら、真衣はしぶしぶ頷いた。
「それにしても、こんなに綺麗な人が、富士峰なんかとねえ」
テーブルに置かれた写真の中では、向日葵畑をバックに富士峰と星乃洋子が並んで、楽しそうに笑っていた。
長い黒髪と優しい笑顔、スラッとした体形で、大和撫子とはこういう人のことを言うのだろうと真衣は感心した。
そんな素敵な人が、富士峰の隣に立っている。
富士峰はいつもながらのチェックのシャツをジーンズに突っ込んで、デレデレの笑顔を見せていた。
「素直じゃない真衣が見ても、洋子さんは綺麗だと思うだろう？
写真じゃなくて生で見たら、もっと綺麗なんだよ」
真衣は富士峰の言葉に首をひねる。
「その美しい人が、どうして富士峰なんかと付き合ってくれてるのか。
今世紀最大の謎ね」
高校からの友人である富士峰に対する真衣の言葉は、いつも厳しい。
富士峰はさすがにムッとして椅子に座り直すと、真衣に指を突き付けた。
「洋子さんの美しい心には、僕の真の姿が映っているのだよ」
「真の姿って何よ。
今は着ぐるみを着てるわけ？
アンタの正体は、ヒーローショーの怪人なわけ？」
「何でそこでヒーローじゃなくて怪人なのさ。
僕だって、世界平和に貢献することもあるよ」
「することもあるって、やっぱり怪人じゃん。
いつもは地球に優しくないんでしょ」
「じゃあ真衣は地球に優しいわけ？
フロンガスとか酸性雨分かる？」
「そんなの知ってるわよ。
それよりアンタは恋愛映画でも観て、もっと勉強したら？」
「勉強って何を？」
「愛の言葉の囁き方とか」
「そんなこと言えるわけないじゃないか。
言えないから、気持ちを形で示そうとしてるんじゃないか」
「相変わらずヘタレね」
「そんなこと言って、真衣はどうなのさ」
「どうって何が」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：井原 | 作成日時：2022年11月24日 22時
