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「玄師さんは何でも手作りするからね。
このジンジャーエールは売っている物と違ってちょっと生姜の辛味があるから、苦手だったら残してね」
「若い真衣さんには、生姜の旨みはまだまだ辛かったですか？」
玄師が揶揄うと、真衣はぷうっとむくれた。
「若いっていうのは褒め言葉に使って下さい！
もう、いっつも子供扱いするんだから」
真衣は玄師と自分の前にも手作りジンジャーエールのグラスを置いた。
仕事は一時中断したらしい。
真斗の隣に座り込んだ。
真斗は真衣が隣に来てくれたのが嬉しのだが恥ずかしくもあり、ほんのり赤くなった顔を伏せた。
「真斗くん、カバン下ろしたら？」
真衣に言われ、真斗は背負っていたカバンを下ろす。
カバンには、近所の塾の名前が大きくプリントされていた。
「塾帰りなの？」
真斗は顔を伏せたまま、無言で首を横に振る。
「これから行くところかな」
また首を振る。
「行ってみたら、お休みだったとか？」
首を振って、真斗はそっと顔を上げた。
「サボっちゃったんです」
疲れ切った様子で申し訳なさそうに口籠もってしまった真斗に、真衣はどう返事をしていいか分からない。
玄師の顔を盗み見たが、玄師は変わらずにこやかだ。
「偶にはいいんじゃないかな、サボっても」
「玄師さんに言われても、説得力が無いよ」
「それじゃあ真衣さん。
お願いします」
矛先を向けられた真衣は困ってしまった。
「サボるのはあんまり良くないけど、偶には良いんじゃないかな。
玄師さんみたいに毎日じゃないんだから」
真衣の声が優しくて、真斗は心が解れていくのを感じた。
「玄師さんは自由過ぎますもんね」
「そうそう。
今日なんか私が出勤した時には、もう居ないの」
「僕はしょっちゅう公園で見かけます」
「子供みたいね」
2人の言葉が聞こえないフリをして立ち上がった玄師は、素知らぬ顔で厨房に入って行った。
「今から仕事をするんでしょうか」
「裏口から逃げるのよ」
真斗が不思議そうに問うと、真衣はすかさず否定した。
真衣の切迫した口調が面白くて、真斗は声を上げて笑った。
「やっと元気が出たね、真斗くん」
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作者名：井原 | 作成日時：2022年11月24日 22時
