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「無理です、私には・・・」
「大丈夫、西宮さんならできるって。
なにせサンバで賞を取ったこともあるんでしょ。
じゃあ、頼んだよ!」
一方的に捲し立てると、中田は足早に去って行った。
残されたされた西宮真理亜は途方に暮れ、泣きそうな顔で立ち尽くすことしかなかった。
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今日も店には常連客が遊びに来る。
今日は白崎和佳子が、放浪していた玄師を連れ戻してくれた。
「いらっしゃいませ、白崎さん」
「真衣ちゃん、こんにちは。
玄師ちゃんは、元気過ぎて外へ飛び出してたみたいじゃない。
ちゃーんと首に縄つけておかなきゃ。
風船みたいに、飛んで帰って来なくなるかもしれないわ」
和佳子は60を過ぎだが若々しく、今日も明るい笑顔でマシンガンのように喋り出した。
「良いアイディアですね!
早速準備します」
真衣の冗談か本気か分からない言葉に、和佳子はころころ笑う。
「玄師ちゃんのことは、真衣ちゃんに任せるのが1番ね」
「それはそうと、白崎さん。
今日は社交ダンス教室はお休みなんですか?」
和佳子はいつも玄師を捕まえると、日参している社交ダンス教室に引きずって行く。
社交ダンス教室には珍しい若い男性である玄師は、ダンスを習っている奥様たちに囃されていた。
いつの間にやらダンスを見覚えて、今では軽く踊れるようになっている。
「これから行くところ。
ね、偶には真衣ちゃんも一緒に行かない?」
隙あらば周りの人を社交ダンスの虜にしようと画策している和佳子は、しゅっちゅう真衣を勧誘する。
「でも、店番がいなくなっちゃう」
「教室は日曜日も開いてるわ。
ここのお店は日曜日が定休でしょう。
真衣ちゃん若いから、すぐ上達するわ」
真衣は曖昧に笑って誤魔化そうとするのだが、今日の和佳子はなかなか引き下がらない。
困った真衣は、チラチラと玄師に視線を送って助けを求めた。
「白崎さん、どうぞ。
お茶を準備します」
玄師が椅子を勧めると、和佳子はイートインスペースに移動した。
「そうだ玄師ちゃん。
ちょっと聞いてよ」
和佳子はちょこんと椅子に座ると、玄師の腕を引いて向かいの席に座らせた。
マシンガントークに応えるべく、玄師は椅子に深く座る。
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作者名:井原 | 作成日時:2022年11月24日 22時