『右に進む者』 ページ20
*
その瞬間
自分の周りだけ時が止まった
俺には全ての事柄がスローモーションに見えたんだ
吐き出す息も、心臓の動きも、背筋に走る悪寒も、
彼女の苦痛に歪んだその瞳だって例外ではない
窓の外からは優しい風が吹き付けていて、それが部屋のカーテンをゆったりと揺らしていた
眩い月夜が綺麗に輝いて、その光は真っ暗闇のこの部屋に鋭く差し込む
何もかも美しく、そして残酷だった
あぁ動悸が激しくなる
呼吸の仕方を忘れたように、口をパクパクさせて
上手く酸素が取り込めない、まるで鉢に浮遊する衰弱した金魚のよう
だけどその口からは何も言葉を発しない、発せられない
静寂が辺りを支配した時、俺は酷く後悔した彼女を好きになってしまったことを
そして、俺の憎むべき相手は彼女だったということに
佐久間「 お前が、………大我を、？ 」
震える唇はゆっくりと、だけど確実に彼の名前を呟いていた
久しぶりに発したその言葉はまるで何年間も口を閉ざしていたかのように、重く、そして苦しい
あぁ、その名を呼ぶことさえ罪深い行為だと思っていた
心の中に閉じ込めていたその想いはダム崩壊のごとく崩れ落ちる
音を立てて、素早く、それなのにゆっくりと
愛しくも儚いお別れを果たした、京本大我
俺が愛してやまなかった、そして俺を未だに縛り付けて離さない彼の名前
人間は残酷だ
だって好きになる人を自分勝手に選べないのだから
感情に従って本能的に生きる俺らは、どんな理由にせよ誰か人を愛してしまう
それはきっと理屈や道理なんかじゃ説明できないものであり、憎むべき相手だから絶対に嫌いになるだなんて、そんなのは机上の空論なわけであって
その事実を全く知らない俺は、彼女を愛することしか出来なかったのだから
佐久間「 嘘だ………嘘だ、 」
溢れ出すその言葉は、息を吐くようにして口から逃げ出し、そして近くの壁に反響する
音にならなかったそのフレーズさえ、俺の頭の中で何度も復唱された
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
頭を抱え込むと、膝から崩れ落ちるようにその場にしゃがみこむ
彼女が近付いてくる気配を感じ取った俺は、すぐにそれを制した
風の動きが止む
俺はまだ、ひとり自分の世界に取り残されていた
*
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ほ - 泣いてしまいました。ありがとうございました (2022年1月20日 3時) (
レス) @page34 id: 0e68d8260d (このIDを非表示/違反報告)
ルウ - 3作品全てみて泣きました。 (2020年12月1日 10時) (レス) id: 16ad01b6c9 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - お疲れ様でした !! 自粛中に1章と2章を読んでめちゃめちゃ泣いたのを思い出しました (;_;)(;_;) 久しぶりに占ツクを見てたら、まさか完結してて、、。夜中にベッドの上で思わず、涙が出てしまい、ボロボロ泣いちゃいました ；__；もう、本当にありがとうございました！ (2020年11月21日 0時) (レス) id: 6fd5f4545a (このIDを非表示/違反報告)
星架．(プロフ) - お疲れ様でした…！キミ以外〜から随分長かったような気がします、すべてのラストで涙しています…((これからも楽しみにしています！ (2020年11月17日 16時) (レス) id: a25d111ebf (このIDを非表示/違反報告)
如月ﾖｼﾉ。(プロフ) - お疲れ様でした！ほんとに素晴らしい作品です。更新を待ったかいがありました！これからも作品作り応援しています！ (2020年11月17日 15時) (レス) id: 3bc10946d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：FON
| 作成日時：2020年9月2日 22時
