【銀魂】 吉原の遊女と鬼の話。

月詠姉様 ページ11

「A、何かあったでありんすか？」

月詠姉様が、不意にわっちに問うた。
最近のわっちは、仕事に不備が多くなってきていた。
そのことで注意しに来てくれていた時の出来事。



そう聞かれて、わっちは黙り込んでしまった。
なにか、あったのか。
そう聞かれると、うまく答えられない。


いくら気持ちのいいふりをしても、
いくら媚を売っても、

なぜか脳裏には｢汚い｣の文字があらわれる。

ただ、それだけなのだから。




「・・・・・・なんでも、ないでありんす。
月詠姉様の心配には及びませぬゆえ・・・」


死神太夫と恐れられてはいるが
この人は本当は優しいことを、
吉原の人間はみな知っていた。

日輪姉様を陰で支えるまるで、月のような人。

そんな人に、
男に言われた言葉が頭から離れないなどという
くだらない相談など、
できなかったし，したくもなかった。


「そうか。
なら、よい。」



よい、と言いながら、
月詠姉様の美しい顔はあいまいな表情をしていて。
・・・・・・・でも、それ以上は何も聞かなかった。






帰り際、月詠姉様は思いついたようにこう言った。

「なあ、A。
ぬしは昔、外に出たいと言っておったな。

もし、ぬしが望むならじゃが、


明日気晴らしに地上に出てみぬか？
もちろん内密にじゃが。
遊女が外に出たと知れればことだからな。

リミットもあるが・・・・・

少しぬしは、息抜きをしたほうがいい気がしてな。
一人で出ることになるが
地上なら遊ぶところもあるし、気晴らしにもなる。

・・・・・どうじゃ？」


確かに、昔は地上に出たいとわめいていた時もあった。

でも、今はここに慣れすぎたのか
そんな気持ちは、もうとっくに薄れていた。


しかし、断る理由もなかった。
月詠姉様が、せっかく危険を冒してまで
わっちに気晴らしさせてくれようとしているのだ。

好意を、無下に断ることもない。

「・・・・・・・はい。
行かせて頂くでありんす。
まことに、ありがとうございます。」


心やさしき吉原の番人は、
花も恥じらうような笑みを浮かべて。

「出発は、明日の早朝４時じゃ。
リミットはその日の真夜中０時。
ごまかしがきくのは、そのくらいなのでな。」


明日の早朝４時。

帰ってくるのは
真夜中０時。



わっちは、まだ想像さえもしていなかった。
こんな、一日にも満たない時間の間に
こんなに、広い江戸のなかで、




・・・・・・・また、あの男に会ってしまうなんて。

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