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「__というわけで、あの、出張が決まった。…です、」




愛しのハニーの待つ家に帰って、最初の報告がこれだった。俺は、叱られることがわかっている子供のようにAの反応を伺っている。


Aがゆっくりと口を開いた。




「……ねぇ蘭ちゃん。それは蘭ちゃんが行かないといけないお仕事なの?」



「え、あ、ボスからの命令で仕方なく、」



「ねぇ蘭ちゃん。出張はいつまで?」



「移動時間もいれると、帰ってくるのは2週間後くらいになる、と思う、」



「……ねぇ、蘭ちゃん」




ごくりと唾を飲んだ。明らかにトーンが違かった。Aの顔が見れず下を向いていると、柔らかく冷たい細い指が俺の頬をつつみ、視線を合わせるよう促した。




「私との2週間は"仕方なく"で済ませられてしまう時間なのかしら。




そうだとしたら、私、泣いてしまいそうよ」





うるうると、水晶玉のような瞳に膜が張られていた。



ああ、やめてくれ、お前が泣くと俺は胸が締め付けられて苦しくて何も出来なくなる、



Aを抱き寄せて、頭を優しく撫でることくらいしか思いつかなかった。




「ごめんな、マジでごめん、明日断ってくるから、だから泣くなって、」




「…蘭ちゃん、私、2週間も蘭ちゃんと離れたことがないわ。私想像できないもの。蘭ちゃんがいない2週間なんて」




「俺も絶対無理だわ、Aがいねぇとむり。心配すんな?絶対断ってくるからなぁ、


……はーあ、Aもいっしょに連れて行ければいいのになあ…」






すんすんと鼻を鳴らす音がピタリと止んだ。




「そうよ蘭ちゃん。私も行くわ。カウントダウンパーティー」




…………おいおいまじか、そうくんのかよ。




「いや、それは危ねぇからダメ。パーティーっつっても脳髄引きずり出し合いの乱闘パーティーだから。」



「大丈夫よ蘭ちゃん、だからボスさんにお願いして?」



「え、いや、マジで危ねぇから。かわいいお前に何かあったらと思うとよ、」



「大丈夫よ。だって、蘭ちゃんが私を助けてくれるでしょう?」





そう優しく微笑む彼女は、天使のようで、俺を堕落させる小悪魔のように見えた。



連れて行ってはいけないのもわかっている。きっとパーティー中にAにつきっきりというわけにもいかない。



頭の中では整理出来ている。





「ねぇ蘭ちゃん。私も一緒に連れていって?」





それは、麻痺薬のような、呪文のような、俺を縦に頷かせる魔法の言葉だった。

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作者名:すき子 | 作成日時:2022年1月22日 23時

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