カルマの時間 ページ8
断崖絶壁の淵から伸びる一本の木。
考え事をするには心許ないその場所に、苛立ちを隠しきれず爪を噛みながら座るカルマがいた。
「…カルマ君、焦らないで皆と一緒に暗殺していこうよ。
殺せんせーに個人マークされちゃったら…どんな手を使っても1人じゃ殺せない。
普通の先生とは違うんだから」
どれ程の時間そうしていたのか、背後から彼の数少ない友である渚の声がした。
先生、ねぇ…。
カルマの脳裏に一瞬、前担任である大野の顔がよぎる。
「…やだね。俺が殺りたいんだ。変なとこで死なれんのが一番ムカつく」
カルマは振り返らずに答えた。
この崖は、カルマが計画した最後の暗殺の舞台だった。これまでの暗殺とは違う、殺せんせーが先生だからこそ、確実に殺せる必殺の計画。
楽しみだな、一度先生ってやつを殺してみたかったんだよね。
カルマは自然と笑顔を浮かべていた。
「赤羽くん！」
…しかし、次に聞こえてきた声はカルマが想定していたものとは全く違っていた。
予想外の来訪者に、今度は振り向く。
「これ！携帯！って、あれ？荷物は？」
「…荷物なら机に引っ掛けたままだけど」
「え、あ、ごめん！てっきり置いて帰ったのかと思って…」
「いや、いいよ。ありがと、鳴海さん」
正体はカルマの隣の席の鳴海Aだった。
あれだけ俺に関わりたくないって顔したくせに、と忘れた(わけではないが)携帯を届けに来てくれた彼女のお人好し具合にカルマは苦笑した。
落ちないように立ち上がり、差し出された携帯を受け取ろうとした、その時だった。
「…何が、そんなに悲しいの？」
こちらを見つめる彼女の口から発せられた言葉の意味を、一瞬捉えることができなかった。
悲しい？…俺が？
「カルマくん？」
答えが出る前に、今度は予想通りの声がした。意識が一気にそちらを向く。
「今日はたくさん先生に手入れされましたねぇ。まだまだ殺しにきてもいいですよ？もっとピカピカに磨いてあげます」
…そうだ。今はこっちに集中しよう。
殺せんせーの舐めきった態度に、カルマは内心ほくそ笑む。
「...確認したいんだけど、殺せんせーって『先生』だよね」
「？はい」
「『先生』ってさ...命をかけて生徒を守ってくれる人？」
「もちろん。先生ですから」
「そっか。よかった」
銃を向ける。
「なら殺せるよ...確実に」
そのまま飛び降りた。
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作者名：よる | 作成日時：2020年3月16日 0時
