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阿部はそれに気づいたんだろう。
あいつは庇うように俺の前に立った。
目の前で、鮮やかな鮮血が飛び散ったそこからの記憶はほぼない。
ただ一つ、覚えていることがあるとすれば______
澤「阿部ちゃんの右眼だけは、俺の力で治せなかった。
だから、阿部ちゃんの目が見えないのはぶっちゃけ俺のせいってこと」
向「そんな……」
あーあべちゃんに断らずに話しちゃったけどいっかぁ。そうへらりと笑う深澤に向井は何か言いたげな顔をしている。
深「俺だってわかってるけどさ。どんなに悔やんだって過去は変えられない。泣いて縋って"変えて欲しい"って嘆いても、変わることなんてない。それが運命だって受け入れるしかない」
深「でもそこで立ち止まって後ろ向いてたって何も起こらないんだよ。だったら、前向いて進むしかないじゃん」
人間の目が前に付いているのは前を向いて歩くためだってどっかのお偉いさんが言ってたように、人間進むしかないんだからさ、と深澤は微笑む。
深「ただのエゴでもいい。守れなくて悔やんだ過去があるなら、もう二度と同じ過去を作らないように。」
深「だから俺は、軍医になったんだ」
そう言って目の前を見据える深澤の目は、いつものおちゃらけた輪を和ませる彼の面影を感じさせないほどに澄んでいた。
深「だからさ、康二も目黒のこと守れなかった、って思うんだったら、絶対次は守るんだよ。お前の場合、治る傷なんだから」
何年も経って瘡蓋の跡が残った痛々しい傷より、鮮血が流れた付きたての傷の方が綺麗に治るから。
まあ呑め、と酒を勧める深澤に苦笑いを浮かべながらも向井はグラスに口を付ける。
向「そういやこのお酒めっちゃおいしい。なんて言うん?」
深「…ブルドッグ」
向「え、わんちゃんの名前なんこれ?!」
深「なんか康二たまに犬っぽく見えるんだもん、それで」
向「ええ!!そこ?!」
でもありがとな、ふっかさん。
そう呟いた彼の瞳にはもう曇りはなかった。それを見た深澤も安心したように向井の頭をわしゃわしゃと撫でた。
どれほど経っただろう。先程まで隣にいた彼の空になったグラスを横目に軍医はまた一人、物思いに耽ける。
今まで忌み嫌ってきた能力を、はじめて愛せた場所だから。
深「お前らだけは、守りたいんだよ」
ひとり呟いた深澤は、残りのジントニックを飲み干した。
***
ブルドッグ『あなたを守りたい』
ジントニック『強い意志』
Rq.燕子花、花緑青の過去
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mu-pon(プロフ) - コメント失礼します。初めまして、mu-ponと言います。いろんな事情があったんですね。この小説がとても面白くいつ更新かなと街に待っていました!今からも大変だと思いますが頑張って下さい!応援してます! (2020年6月30日 21時) (レス) id: df04c4729a (このIDを非表示/違反報告)
藤菜 - 初めまして!佐久間大好き!あべさくコンビも大好きです!この小説とても面白いですね!頑張ってください!応援してます! (2020年5月29日 10時) (レス) id: 624e77d1d4 (このIDを非表示/違反報告)
あんと(プロフ) - リクエストお願いします!ふっかさんが敵に誘拐されるお話が読みたいです。めちゃくちゃ好きなタイプのお話なので、今後も作品楽しみにしています! (2020年5月25日 22時) (レス) id: 9203f39f18 (このIDを非表示/違反報告)
てんぷら(プロフ) - ゆり組のお話が読みたいです。2人の秘密に迫るというか、2人ならではの絆のお話しをお願いします。アバウトな感じですみません。。これからも応援しています。更新待ってます。 (2020年5月24日 19時) (レス) id: d802e6ae3c (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 藜さん» すみません!間違えました (2020年5月23日 23時) (レス) id: c9acd22823 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藜 | 作成日時:2020年5月16日 21時