ボディガード ページ10
善さんの提案に唖然とする。
私も、依織さんも、珂波汰くん？も。
「Aさんのご好意を無下にする訳にもいきませんが
若が心配される気持ちも重々承知していますので」
時間によっては
最終電車が無くなっていて
帰れないキャストもいる。
そういう娘たちを送るのはボーイの仕事で、
彼女達はスラムとは正反対で暮らしている。
歩いて帰れる距離の私に送迎など要らないし
Candyのスタッフにもそんな余裕は無いだろう。
「ええやん！ボディーガード付きなら安心やわ。
……俺らの家族、ちゃんと守ってや？」
依織さんが珂波汰くんの肩を叩く。
「そんなこと頼んだら、きっと彼も迷惑ですよ！」
「報酬が出んなら、やっても良い」
「よし来た！たーんと弾んだるで！
大事な家族のためや！」
何故だか、善さんの提案が実施される流れで
出勤日の送り迎えを珂波汰くんにしてもらうことになった。
そうして、ようやくお仕事。
「キャバ嬢デビューおめでと！A〜！」
アンに祝われ、初仕事をこなす。
みんなの仕事ぶりをみていたからか
あまり不自由せずにすることができた。
靴は貸し出し用があったので、それを使用した。
アンにはヒールが折れてしまったことを話した。
「わざとじゃないし、仕方ないよ！
また今度、もっとお洒落なの買いに行こ！」
明るく励まされるほど、アンの優しさが心に響く。
珂波汰くんが拾ってくれた折れた部分と本体で
なんとか修理できないか帰ったら試してみたいと思う。
初めて友達に貰った物だから、大切にしたい。
今更、だけれども。
「おせぇ。」
「ごめんなさい！待っててくれてありがとうございます」
店の裏で珂波汰さんは待っていてくれた。
今日から早速、送迎の仕事を始めてくれるという。
「別に。仕事だから」
「それでも！ありがたいんです！」
正直、夜の闇は怖かった。
一人で歩く道は心細かった。
誰でもいい、話してるだけで気が軽くなる。
「んで、アンタの家、どっち？」「こっちです。」
基本は私が話しかけて
珂波汰さんは、たまに相槌を打つだけ。
話を聞いてくれているのかどうかは確かめようがない。
和やかなひとときには終わりが訪れる。
「あっ、着きました。ここが私のアパートです」
スラムと街の間に位置している。
お世辞にも住みやすいとは言えないが
幼き頃の思い出が詰まった唯一無二の居場所なのだ。
「案外ボロいとこ住んでんのな」
金あるはずだろ、と納得してない様子。
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作者名：わんしゃん | 作成日時：2022年12月29日 23時
