蛇の片割れ ページ8
18になって初めてのお仕事。
今までは遅くまで働けない分、早く行って
善さんの家事や開店準備を手伝っていたが…
善さんからメッセージが入っていた。
【慣れない仕事になるでしょうから、
開店時間までゆっくりしていてください。】
そう、今日からは裏方ではなく
お客様の接客をメインに行う。
平たく言えばキャバ嬢にジョブチェンジだ。
学校から直接、お店や事務所に向かうのが
ルーティンになっていたから
陽が沈むまで家にいるのが落ち着かない。
少し早いけれど慣れないヒールだしもう出よう。
キャバ嬢としての初仕事だから
アンから貰ったヒールを履いて行こうと
胸を踊らせながら玄関の扉を開けたのだった。
「あーあ、お姉さん。だいじょぶそ？」
少しぎこちなく歩いていたところ
後ろから誰かがぶつかった。
不意に崩れたバランスは
再度、均衡を保つことなく崩れ落ちた。
明確な悪意を持って崩されたのだ。
「右足、ヒール折れちゃってんじゃん！
どっか行く予定だった？？」
「俺の車、乗ってく？
俺も悪かったし、お姉さんかわいいし？」
道幅もある歩道で走ってた訳でもなくぶつかる。
嫌でも疑問を抱かずにはいられなかった。
「お気遣いなく。遠慮しときます」
「そう言わずにさ？ちょっとくらい付き合ってよね」
ナンパ男は
ころんで道端に座り込んでた私の手を掴み
立ち上がらせて、壁に押し付けた。
最悪。相変わらず状況が悪い
足元は片方のヒールが折れているため
突き飛ばしたらまた転んでしまうだろう。
そもそも力が強くて振り払えない。
「いや！触らないで！やめてください！」
突然の大声に驚いたみたいだが、力は緩まない。
もう駄目だと諦めかけていた。
大切にしていたアンからのプレゼントも壊れて
貞操も危うくなって、もうメンタルはボロボロだった。
「うるせーよ。」
聞こえたのはナンパ男のねっとりとした声
ではなかった。
何が起きたか分からないうちに
目の前のナンパ男は倒れた。
その代わりに
私とそう変わらない背丈の男の子が立っていた。
見下され、視線が交わり、ある事に気づく。
この人、知っている。
「あっ！ありがとうございました！
なにか、お礼させてください」
そうして、立ちあがろうとすると
左右の足のバランスが取れずに再び転んでしまいそうになる。
彼に腰を支えられ間一髪のとこで転ばすにすんだ。
「アンタ、翠石さん所のヤツだろ。」
思いがけない言葉が聞こえた。
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作者名：わんしゃん | 作成日時：2022年12月29日 23時
