雨宿りは君と ページ11
お仕事を知ってなのか
彼は私のことを同じ地域に住む
仲間とは思ってくれないみたいだ。
もっとも、治安も生活水準も良いとこに
引っ越せるくらいの稼ぎはあるので
彼からすれば理解しがたいのだろう。
こんな場所に自分の意思で残っている私は。
「住めば都。それに、ここは実家みたいなものですから」
軽く微笑んで誤魔化す。
再度、深々とお礼とお別れをして扉を閉める。
それにしても本当に瓜二つだったな。と彼の顔を思い返す。
那由汰くん。
あの日見た彼が何者かなんて知らない。
確かに、Opening showでその存在を認識した。
たったそれだけ。
その日から会場近くや彼らの住処の近くを
頻繁に通るようになって無意識に彼を探していたんだ。
まるでストーカーじゃないか。
未だに、執着してる。
惨めな自分に呆れた笑いがこぼれた。
バイト終わりのある夜のこと。
「お待たせ〜。寒っ！中入って待ってて良いのに…」
珂波汰くんが迎えに来てくれるのが“当たり前”になってきた頃
相変わらず態度は冷たいけど、それなりに仲良くなったと勝手に思っている。なんて言ったら怒られそうだけど。
「ん。別に気にすんなよ。ほら、帰んぞ」
店を出て数十歩、突然の土砂降り。
「運悪いねぇー、」
「こんなの走ればいーだろ」
傘も持たずにいる二人は取り敢えずコンビニに入る。
家までどんだけ急いでも10分はかかるのに走るなんてごめんだ。
お目当てのビニール傘は、ちょうど残り2本。
迷わず手に取ってお会計を済ます。
いらねぇよ。と強がる珂波汰くんを無視して押し付ける。
「傘、あっても困らないでしょ？
いつものお礼だと思って受け取ってよ」
渋々、普通の透明なビニール傘を広げる彼は
暫く傘の持ち手をくるくる回して歩いていた。
目線は上を向いていて興味津々のように見える。
まるで、新しい傘を与えられた小学生…あるいは、幼稚園児。
雨を避けるだけの道具は
彼らの暮らしの中では優先度が低く馴染みも無いのだろう。
その暮らしを思うと胸がきゅーっと締め付けられる。
傘にあたる雨粒のパラパラ音に驚きながら
「雨も悪くねぇーな」
終いには、なんて言い出すから。
「珂波汰くんも普段は雨苦手なの？」
確か、双子の那由汰くんは雨が苦手だったはず。
「俺“も”？」
しまった！
なんとなくだけど後ろめたく感じてたんだ。
珂波汰くんを那由汰くんに重ねてしまうこと。
「アンタは苦手なの？…っふ。餓鬼だな」
全然、違う人なのに。
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作者名：わんしゃん | 作成日時：2022年12月29日 23時
