世界はロックンロークで満ちている (ページ7)

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7．隠せば隠すほど目立つ物ページ7

「これね、前にも今日みたいなことがあったときに、地味目なワンピースでも一着あった方がいいなって思って空いてるロッカーにしまい込んでたのよ。Aの身長だとひざ丈くらいになるし、なかなかいいでしょ？」

おほほ、とほほ笑む有栖さんは少し悪い顔をしているのだけど、正直とっても有り難い。

「胴長短足低身長のおかげでひざ丈最高です」

「靴は、それでいいわね、ワンピースとも合ってるわ」

かろうじてローヒールを履いていたため、後はコンビニでストッキングでも買ってきて着替えればそれなりになるだろう。やっぱり持つべきものは有栖さんです。

その後、岬さんから有栖さんに担当が移り、連絡も有栖さんが引き継ぐことになった。ジェジュンさんは前の仕事が少し押し気味のため、4時過ぎに我が社まで来てくれることになった。

その間に私は細かい業務や、別件での打ち合わせに参加し、その日もそれなりにバタバタと過ごしていたら時間なんかあっという間で。

「A、ごめん。私これ室長に渡してから行くから先に会議室で待ってて。もうクライアントお通ししたって内線入ったからダッシュで歩いていきなさい」

「は、はい！」

ダッシュで歩いて？？？

とりあえず私は手帳と、歌詞を印刷した用紙と携帯だけ持って全速力で歩いた。

コンコン、ノックをする右手を見たときしまったと思った。だけどもう遅い。

「こんにちは、今回岬に代わり作詞を担当させていただきました、月島Aと申します」

「本日は急なお願いをしてしまってどうもすみません。私、マネージャーの久保と申します。よろしくお願いします」

左手で右手を隠すようにするのはせめてもの抵抗だろうか。左右に揺れ動く彼の視線は、それだけ動揺と混乱の色を強く示している。

「あ、あの、ジェジュンです。よろしくお願いします、、」

そんな中やっぱり私が思うのって、芸能人だあ、とか本物だあ、とか綺麗な顔をしているなあとか。そんなことだったと思う。後は、昨日と同じ香水だな、とか。

「初めまして、月島Aです。よろしくお願いします」

意図的ではないけど自然と出た言葉がそれだった。でも、ご挨拶させていただくのはこれが初めてなのだから、まあ間違っちゃいないかななんて。

それで彼がどう思ったかはわからないけど、少しだけ、さっきより少しだけ表情が和らいだように感じた。