世界はロックンロークで満ちている (ページ2)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:7,053 hit

2．ピースの足りないパズルのようにページ2

「でも、珍しいですね。岬さんが遅れてるなんて」

岬さんはうちのチームのエースだ。と、室長は言っている。私もそれには同感だ。

うちは大手でも弱小でもないまさに中堅音楽出版社、のさらに子会社というか派生部署？で、外注の作詞作曲を手掛けている。そのなかでも岬さんは作詞作曲両方をこなすことができて、なおかつ作業スピードがダントツで速い。

だからその岬さんが、ひとつの案件を残り2週間になるまで残しておくなんて意外だった。

「曲はできたんだけどね、っ、、それに合う歌詞が嵌らなくて。一応テーマは失恋の痛みってことなんだけど。A得意だろ」

「得意ではないですけど。というか余計なお世話ですーー。作曲は岬さんですよね、ファイルどこですか。いますぐ送ってください。いま、すぐ！」

「じょ、冗談だって。一番上の引き出しに赤いUSBあるから、そこに入ってる」

おいおい、引き出しの鍵くらいかけて下さいよ、という言葉は飲み込んでお大事にと電話を切った。何でこの人こんなにてきとーなのに外注の指名ナンバーワンなんだろう。腹立つう。

苛立ちながらもガサっと引き出しを開けてUSBを取り出した。

自分のPCに差し込んでファイルを開く。「ジェジュンの曲」って、そのまんまかよとヘッドフォンを耳に装着しながら再生ボタンをクリックした。

ああ、前言撤回だ。

やっぱり岬さんはうちのエースで

天才だ。

何度も曲をリピートして、何度目かでノートとボールペンを手に取った。

別れた恋人に向けた歌にしよう。浮気して去って行った恋人に向けて、なんてきっとアイドルであるジェジュンさんにはそんな経験ないんだろうな。女の子なんて次から次へと。

勝手に顔もうろ覚えなジェジュンさんの像を創っていく。

そしてなんとなく形を作っていって、メロディーに乗せてみると、どうもおかしい。しっくりこない。

というか物凄く、普通。

「岬さんもこの沼にはまったのか、、」

曲が良すぎて、単純なテーマが安っぽく見える。まあ、アイドルの曲だからそのチープさがよかったりもするんだけど。うーん。微妙だな。

1時間、2時間と時間がすぎるごとにドツボに嵌る。

私は正直作業が遅い方ではあるんだけど、それにしたってあまりにもイメージが抽象的過ぎて文字として具現化できそうにない。

さて、困ったな。