世界はロックンロークで満ちている (ページ1)

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1．歯車が回り始めたページ1

あなたの名前を聞いたのは、いまから丁度2週間前。朝のミーティングで先輩が急性胃腸炎になったと知ったときだった。

「えええ、岬さん入院したんですか？」

「ああ、だから岬がいま持ってる仕事、月島に引き継いでもらいたんだけど構わないよな」

「一応大丈夫だと思いますけど。後で岬さんに連絡してみます」

「任せたぞ」

と、なんとも高圧的な室長からの指示により、私はひとつ年上の先輩社員岬さんの仕事を全て引き継ぐことになってしまった。

ちらり、と私の隣の岬さんのデスクを覗くとまず先にPCの周りに何枚か貼ってる付箋が目についた。

基本的にはPCの操作だったり、よく会うアーティストさんとのミーティング時間など簡単な内容のものだったけどただひとつだけ、無造作に「ジェジュン、歌詞」とだけ書かれたメモがあった。

「ジェジュン、ってあの韓国の、、アイドルだっけ？」

何年か前まで日本で爆発的に人気だったお隣の国のアイドルグループ。いまは確か人数が減って、2人組だった気がするんだけど。ジェジュンというのはそのうちのどちらかのことだろうか。

さすがに引き出しのなかまでは漁ることができないので、ざっと目視で確認できるところまで確認して、岬さんにLINEを入れてみる。

《お疲れさまです。
　入院したって聞きました。
　無理するからですよーー。
　この際ゆっくりしてくださいね。
　引き継ぎ、私がすることになったんですけど
　急ぎの仕事ありますか？》

すると、すぐに電話がかかってきた。

「A？っ、いやー、すまんすまん。俺たぶん2週間は戻れなさそうなんだけど、、っ」

「それは大丈夫なんですけど、電話きついならLINEでいいのにーー」

「っ、あのさ一個急ぎの仕事があって、それ頼みたくてさっ、、」

「もしかして”ジェジュン、歌詞”ってやつですか？PCに貼ってあった」

「それそれ！」

要約すると、この件はいまからさらに1ヶ月ほど前から話が進んでいたお仕事で、岬さんは、ジェジュンさんの初めての日本ソロアルバムに入れる楽曲の作詞作曲を頼まれたそうだ。

曲はすでに出来ていて、そこに乗せる歌詞だけがいまいち上手くいっていないと。そして、その期限が2週間後。最低でも2週間後には本人の元へ届いていないとレコーディングが間に合わないらしい。

なるほどね。

でも何だか、岬さんにしては珍しい。