世界はロックンロークで満ちている (ページ10)

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10．半分本当を混ぜた嘘ページ10

彼の声を初めて聴いたとき、なんだか懐かしい香りがした。

そのときの私はもちろん彼に会ったこともなければ彼の香りなんて知る由もなかったけど、どこか懐かしくて、自然と気持ちが沈んで、なんだか救われるような気がした。

声紋学とかで検証すれば本当にそういう人の感情に訴えかける周波でも出してるんじゃないかなって思う。

好き嫌いとか個人の趣向とかそういうのを全部ぶち壊して、私は彼の声が好きだったし、岬さんが作ったこの曲に絶大的な評価をしていたし、絶対にこの歌を世に出して、彼のファンもそうじゃない人にも聞いてほしいとそう願っていた。

だから私は彼をイメージして、彼の声に合うように言葉を選んで、私の中に渦巻いていた暗い思い出と感情を繊細なメロディーと彼の声に乗せて流すことにした。

「全部、ではないですね。もちろん自分の実体験も入っています。でも、私はジェジュンさんにこの歌を歌ってほしくて書いたんです。不快にしてしまったら、、すみません」

作詞家のくせになんでこんなにうまく話せないんだろう。

きっと彼が求めてる答えってこういうことじゃないんだよなってのは分かってるんだけど、まさかここで思い出語りなんてできないし、楽曲自体は気に入ってくれてるみたいだからもうそれでいいじゃない。

しばらく重い沈黙が流れた。

後に、それを断ち切ったのはやはり私の好きなあの繊細な声だった。

「それが聞けて良かったです。僕にこの曲を預けてくれてありがとう」

こんなときでさえ、私はやっぱりこの人の顔を綺麗だなあ、なんて見つめてしまう。