【d!】85%の敬愛 (ページ9)

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早くお家に帰りたい。
あの書類にサインさえしなければ私は今頃可愛い子供達がいる職場を探せていたのだろうか。バイクの音がうるさい自室や酔っ払った若者の騒ぎ声も，今なら何だか可愛く思えてくる。理解出来ない行動をとってくる男にもさっきから距離が近すぎるこの男にも会わずに平和に自分のペースで暮らすつもりだったのに。

｢待たせてすまない、居心地はどうだ？｣

煌びやかなドアが開かれると共に、思わず耳を傾けたくなってしまうような低いバリトンボイスが響き渡った。
瓶底メガネ君の手を少しずらして前方を確認すると、金髪で眼鏡をかけたリーダーらしき男が私の目の前につかつかと歩いてきた。その後には10人前後だろうか、一人一人個性的な部下(仮)達がぞろぞろと姿を現す。そこにはゾムさんの姿も確認でき、私を囲うようにして並んだ。

｢ゾムに連れてこられたお嬢さんとやらは貴方で合っているかな？｣

バリトンボイスの持ち主は，私が座っているソファと向き合うように置かれたもう1つのソファに腰掛けた。てっきりお酒を嗜むような場所かと思っていたが，ここは恐らく面談室的な部屋なのだろう。

｢私の名はグルッペン。皆からは総統と呼ばれている，宜しく。｣

総統？ここは軍事施設か何かだろうか。普通お頭とかボスとかそういうもんじゃないのか？まぁ別に呼び方の1つや2つ特に気にしない。
取り敢えず，グルッペンさんがここのボスだということは理解した。貫禄からしてそうであろうとは考えていたが，改めて名乗られると少し怖い。
瓶底メガネ君はグルッペンさんが話し始めると同時にするりと腕を解いてくれた。やっと自由になれた。彼の手の感覚がまだ少し残っていてむず痒い。

｢私はAです。宜しくお願いします？｣

対マフィア(っぽい人達)との会話の仕方が分からない為、戸惑いながらもグルッペンさんに軽い会釈を返す。これもしかして『承知しております。ご機嫌如何でしょうかグルッペン様』とか言うべきだった？正座して旅館の女将のようなお辞儀をするべきでした？？？
私が難しそうな顔をしていると，彼は私に手を差し伸べてきた。どうやら総統閣下万歳みたいな対応じゃなくても良さそうだ。私も彼に応えて手を重ねる。勢いこそ強くはなかったが，握力が強いのか少し痛いくらいの握手をされた。

｢ふむ、そうだな…まずは自己紹介からしようか｣

彼の一言で、私の周りにいた人達の自己紹介が始まった。