【d!】85%の敬愛 (ページ5)

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｢というわけで，私本当に保証人になった覚えがなくて｣

先刻の彼の鋭い眼光ですっかり怯えきってしまった私は、震える声で昨日の出来事を説明していた。
彼曰く、昨日の女性が借金を抱えていた張本人で，私は彼女に言葉巧みに嵌められた，というわけで。
都会は元々怖いところだと思っていたが，オラオラ系のTheチンピラだけではなく陰湿な詐欺師も居るということを学習した。もう手遅れなのだが。

｢そうは言うてもなぁ…こっちで手続きしてもうてんねんな｣

フードの上から頭を掻きながら話す彼は，思ったより怖くない人だった。いや怖いことには変わりないのだけれど，人と話す事に慣れているのかはたまた人との関わりが多いのか，意外と話易い。
開けた窓からそよそよと部屋に入ってくる風が私達を包む。地元と違いどこか変な匂いのする風に眉を寄せる私を横目に，彼は手を顎に当てて考え込んでいるようだ。

彼も私も混乱だらけで，私自身未だ信じられない部分がある。彼女の言動や仕草が全て演技だなんてとてもじゃないが思えない。瞳に溜めた大粒の涙も手足に見える青黒い痣も，道行く人を騙す為の演技だったという訳だ。

ここで暮らしている人はそういうものに危機感を持ち合わせているからスルーするそうだが，なにせ私はここと比べると田舎に見えてしまうような地ですくすく育った上京してすぐの田舎娘。初めて見る光景に対応出来ずにこの結果を招いてしまったのだろう。

｢とりあえず，ボスに相談してみようや。｣

今まで必死に貼り付いた笑顔を浮かべていた私も，彼の言葉に真顔になった。背を伝う冷や汗が額にまで浮かんでくる。今日の気温はそこまで上がらない予報だったはずなのだが。
彼なりに考えた結果，私は彼の務めている仕事(敢えて触れないでおこう)場に出向くことになった。

破壊されて真っ二つになったドアをひとまず家具で押さえ、私は部屋着のままアパートから立ち去った。ギラリと爽快に輝く太陽の下，私は今にも泣き出しそうな想いを募らせて彼の後ろを追う。
彼の歩幅が広く後を追うだけでも大変なのだが，そんなことよりも自身の身に降りかかるであろう不幸への不安で押し潰されそうだった。保育士になるという私の夢は，上京2日目にして何の成果もなくへし折られるかもしれないという恐怖。

案の定彼が歩く道は段々と湿っていき，廃れた建物が立ち並ぶようになっていった。