ある極道のお嬢の話II (ページ11)

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病院に着くと、俺たちは待合室に案内された。

奥の方からお嬢の苦しそうな声が聞こえてくる。

坊ちゃんの時は既に出産された後だったから知らなかったが、人間からこんな声が出るもんなのか？

戸狩「なぁ、看護師さん！Aは大丈夫なんか？！あんな、、、あんな声、、、」

動揺した戸狩さんが、看護師さんに掴みかかる勢いで質問を投げる。

看護師の方も必死に宥めているが、聞こえてねぇ。

戸狩さんの顔からどんどん血の気が引いていくのがわかる。

でも、俺たちだって気が気じゃねぇ。

その時、坊ちゃんが戸狩さんの服を引っ張った。

正気に戻ったのか、戸狩さんは優しい顔でーと言っても若干の緊張はあるがー坊ちゃんに視線を合わせる。

翔「あんな、お父さん。お母さんなら、だいじょうぶや。だってね、お母さん、ぼくに言ったんよ。お母さん、いっぱい痛いけど、ぜったい僕とお父さんに会うからって」

坊ちゃんは笑っていた。

大人たちが恐怖に駆られている中、彼だけはただ母親との約束を信じている。

情けねぇ、、、俺は、なんて情けねぇんだ。

翔「だからね、だいじょうぶ。お母さん、いっつもいうてるもん。約束はやぶったらダメよって。お母さんと、笑顔で待っててねって約束したから、だいじょうぶや」

戸狩さんが、この小さなヒーローを抱きしめた。

しばらくして分娩室から出てきた主治医が出産の成功を告げた。

俺たちが両手をあげて喜んだのは言うまでもないだろう。

俺たちは、戸狩さんと坊ちゃんが新しい家族に会いに行く後ろ姿を静かに見守っていた。

しばらくして、ほんのりと目の赤い坊ちゃんを抱え戸狩さんが出てきた。

戸狩「お前は、ええ兄貴やなぁ。今も昔も、俺たちのヒーローや」