ある極道のお嬢の話 (ページ8)

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永瀬光一、14歳。

彼は今、人生最大(？)の窮地に陥っていた。

「……」

大きな黒色の瞳を濡らしながら、敵意のこもった目を向けてくる少女。

普段なら、男でも女でも関係なく敵意があると見なせばボコボコにするのだが今回ばかりはそうもいかない。

拾われた恩義とかではなく、純粋にこの少女の涙に躊躇ってしまう。

「何だよ」

とりあえず言ってはみたものの、声には覇気が乗ってない。

「、、、もん」

「あ？」

「おばちゃんとおじちゃんは、Aのだもん！！」

そう大声で言ったかと思うと、さらに大きな声で泣きはじめたではないか。

あまりの大きさに光一は思わず耳を塞ぐ。

親も兄弟もいない光一は、小さな女の子の泣き止ませ方なんてわからない。

耳を塞いでもつんざくように聞こえてくる声に、光一はだんだんと怒りのボルテージを溜めていた。

そうしてとうとう爆発しようかという時、ようやく大人が駆けつけた。

「どうした、A！」

初めに駆けつけた阿久津を筆頭に、桂司、京子と続く。

阿久津の方は、娘を泣かせた男をこれでもかと睨みつけていたが、光一の方も抗議の目を向ける。

なにせ、今回のことに関して光一は一切悪くない。

勝手に睨まれ勝手に泣かれたのだから。

「どうしたの？」

「こいつが勝手に泣いたんだよ」

光一の言葉が聞こえたのか、泣き止みそうだったAがまた一際大きく声を上げる。

「こいつじゃないもん！Aだもん！」

Aの様子に、阿久津は光一への睨みをやめ、娘の方に向き直る。

「A、どうして泣いてるんだ？」

父親の問いかけに、Aはしゃくりあげながら必死に答える。

「だって、こいつが京子おばちゃんのご飯たべたの！Aのなのに、たべたの！」

よほど悔しかったのか思い出し泣きを始めるAに、阿久津は深くため息をついた。

当時のことをAは

「あの時は子供だったのよ。周りはみんな大人で、何でも私優先にしてくれてたから我儘が染み付いちゃってたんだと思う。光ちゃんには悪いことをしたわ」

と恥ずかしげに語っている。

その後、誤解が解けた2人は兄妹のように育っていくことになるのだが、それはまた別のお話。