ある極道のお嬢の話 (ページ6)

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お嬢と天羽組。こうして彼女は生まれた！ページ6

19××年。

ある2人の男女の元に、新たな命が誕生した。

絹のような白い肌によく映える黒髪をした、それはそれは可愛らしい女の子。

彼らはその子にAとつけた。2人の愛の結晶である。

「敏朗さん、見て。とっても可愛いわ」

「あぁ、お前に似て別嬪だなぁ」

「やだ、ふふっ。眉毛なんて敏朗にそっくりじゃない」

男は、ヤクザ。

故に2人の間に婚姻関係はないが、そんなことを感じさせないほど仲睦まじい夫婦であった。

ヤクザにとって、妻や子は大きな弱点になる。

敏朗は多くても3ヶ月に一度程度しか会えない2人に申し訳なく思っていたが、妻の方はそれも承知の上だと肝の据わった女だ。

そんな両親の愛情を惜しみなく受け、Aは健康に育っていった。

しかし、その幸せは長くは続かなかった。

Aが2歳になろうかという頃、妻の体に異変が起きはじめた。

初めは軽い咳だったものが、だんだんと彼女の体を蝕み始める。

妻は結核になっていた。

早期発見できたなら、それほど悪くならずに済んだだろう。

しかし、現実とは残酷なもの。

敏朗が長期出張の時に、運悪く彼女は結核を患ったのだ。

敏朗が帰ってきた時には、もう助かる見込みはないほど進行していた。

「ゴホッごほっ、ごほっ、、、ぐっ」

吐血する妻を助けることも、身代わりになることもできず、敏朗はただ眺めているしかなかった。

愛した女が、最愛の人が日に日に弱っていき、頬は痩け声にも生気がなくなっていく。

「すまねぇ……すまねぇ……」

ただ謝ることしかできない不甲斐なさ。

家族より仕事を優先してしまった自分への恨み。

まだ幼い娘への不安。

敏朗の胸に様々なことが浮かんでは消えていった。

「敏朗さん、、、」

蚊の鳴くような声で呟きながら、彼女は骨ばかりになった手で敏朗の頬に触れる。

彼女の手を敏朗の涙が濡らす。

「あの子を……Aを、、、お願い、、、」

それが阿久津敏朗の最愛の女性が残した最後の言葉だった。