ある極道のお嬢の話 (ページ48)

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「今日は、結婚の報告をさせていただきたく参上しました」

中央には親っさん、両サイドには殺気に溢れた天羽組組員。

この状況で、堂々としているこの男はやはり流石としか言いようがない。

長い沈黙が続く中、徐に親っさんが口を開く。

「君は、何度、Aを泣かせた」

親っさんの言葉を戸狩は深く受け止めているようだった。

口を開きかけたお嬢を制止し、さらに続ける。

「先の戦争のことを責めるつもりはない。互いに、惜しい者たちを亡くした。そうだろう。

死んでいった者は、蘇らない。

だが、Aは違う。

この子は、この先も何十年と生き続ける。それは、過去の傷を背負ったまま生きると言うことだ。

この子の涙を、仕方なかったで済ませるつもりならタダじゃおかない」

親っさんの顔は、父親のそれだった。

死んだ阿久津のカシラの分を背負っているような気がして、俺はグッと涙を堪えた。

「して、戸狩君。君がこの先、この子を泣かせないと言う保証はあるかね」

笑って言ってたが、目元は全く笑ってねぇ。

下手をここうもんなら、一瞬で針の筵だ。

兄貴たちは、各々の武器に手をかけている。

「Aの涙を、しょうがないで済ませるつもりはありまへん。ちゃんと向き合います。

でも、この先俺がAを泣かせないと保証することも無理ですわ。

ただ、Aが泣くことがあれば、今度こそ俺はAの側にいます。ずっと、Aの笑顔を見れるまで……そばで支える、それだけです」

お嬢は、顔を赤くして俯いていた。

その様子を見た親っさんの雰囲気が和らぎ、兄貴たちも警戒を解き始める。

「必ず、Aさんを幸せにします！」

そう声高に宣言し、戸狩は再び深く頭を下げたのだった。