ある極道のお嬢の話 (ページ42)

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「ふぅ」

泣きじゃくる翔をなんとか宥め、ご飯を食べさせようやく眠ってくれました。

半分、泣きつかれもあるでしょうけど。

玄弥さんと食べるご飯を眺めながら、ふと昔のことを思い出しました。

お恥ずかしながら、私は料理が上手ではありませんでした。いえ、むしろド下手と言っていいレベル。

初めて玄弥さんに料理を振る舞った時の驚いた顔が忘れられません。

それから、週に何回かー彼が忙しくない時に私の家で一緒に料理を作る事になったんです。

回を重ねるごとに、玄弥さんに褒めてもらえるのが嬉しくて、美味しそうにしてる顔を見たくて、私は料理を研究するようになりました。

「ふふ、あぁ、、、私、かっこ悪いなぁ」

大事な人たちに、ありがとうもごめんなさいも言えずに終わってしまった。

その上、情けなく過去に縋って……

目頭が熱くなり、視界がぼやける。

泣いたら、ダメなのに……

玄弥さんに会うのに……

「ままぁ」

「あ、ごめんね翔。起きちゃった？」

「ん、、、まま、たいたい？」

私が泣いているのを見た翔が心配そうに首を傾げました。

慌てて涙を拭って、翔を抱きしめます。

「ううん、大丈夫だよ。ママ、とっても元気」

「いこ、いこ」

小さな息子の手が、優しく私の背中を撫でました。

また泣きそうになるのをグッと堪え、翔にお礼を言います。

その時、玄関の方で呼び鈴が鳴りました。

「あ、はーい。翔、ちょっと待っててね」

玄弥さんが来たなら、ちょうどいいです。

翔を椅子に座らせ、玄関へと向かう。

「、、、え」

そこに立っていたのは

「タケル先生」

翔の保育園に勤める担任保育士の姿。

彼は不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ています。

危険を感じドアを閉めようとしたその時、お腹に鋭い痛みが走りました。

刺されたのだわかるまでそう時間はかかりませんでした。

彼の手には真っ赤に染まった包丁が握られていたのです。