ある極道のお嬢の話 (ページ40)

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声のした方を向けば、幼子が1人、ヨタヨタとした足取りでこちらへ向かってくるではないか。

「翔、転ぶから走らないでね」

Aは、駆け足でその子のもとによると優しく腕に抱き上げた。

子供は嬉しそうに、母親の頬に擦り寄っている。

「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったね。いい子にしてた？」

「あい！……う？」

勢いよく返事をした翔は、母の後ろからついてきた男に気がついたようだ。

不思議そうにじっと渋谷のことを見つめている。

一方、渋谷は驚きのあまり固まってしまっていた。

(おいおい、嘘やろ。兄貴の遺伝子強すぎひん？)

誰が見たとしても、おそらく同じような反応になるだろう。

翔の容姿は、あまりにも戸狩玄弥に酷似しているのだから。

強いて言うならば、戸狩本人より幼さがありー母親譲りなのだろうかー柔らかい雰囲気がある。

そんな渋谷の心中を察したのか、Aの口からクスリと笑いがもれる。

「疑いが晴れたみたいで、よかったです」

「え゛！？あ、いや、、、そのっ、、、すんません」

悪戯っ子のような笑みを浮かべたAに、渋谷はしどろもどろになる。

「翔、この人は渋谷大智さん。こんにちわしてごらん？」

「おちわ！」

一点の曇りもない笑顔を向けられ、渋谷の顔が自然と綻ぶ。

「ええ子やなぁ」

そう言って、頭を撫でると翔は嬉しそうにコロコロと笑った。

「ふふ、よかったねぇ翔」

Aは、息子よりも嬉しそうに笑った。

「阿久津さん、最近お困り事などありませんか」

と、突然保育士が声をかけてきた。

男は、翔の組の担任教師だ。

「あぁ、はい。最近は夜泣きも減ったので」

「そうですか、それは良かったです。何かあれば気にせず連絡してくださいね」

「あー、えっと、はい。ありがとうございます」

気まずそうに笑うAに、渋谷は微かに違和感を覚える。

「翔、先生にバイバイして」

「ばばい」

「はい、またね。阿久津さんも、また」

(なんや、こいつ、、、)

渋谷は男の不気味な雰囲気に眉根を寄せた。