ある極道のお嬢の話 (ページ39)

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渋谷とAは、息子ー翔の待つ保育所へと向かっていた。

ちょうどお迎えの時間が来てしまい、渋谷も同行する事になったのだ。無論、渋谷は“戸狩の息子”であることの事実確認も含めている。

保育所への道を辿りながら、渋谷はAに問いかける。

「阿久津さんは、戸狩の兄貴のこと恨んでないんですか」

愚問、だとは思ったが、どうしても渋谷は確認しておきたかったのだ。

Aは少し考え込むように空を見上げ、一つ一つ確認するように言葉を吐き出す。

「恨んでます。父を殺したことや、私の家族を傷つけた恨みは、多分、一生私に付きまとうし、、、ふとした瞬間に思い出すんだろうなって……」

哀しげに笑うAに、渋谷は顔を曇らせる。

「でも、その恨みと同じくらい、玄弥さんが好きなんです」

その表情は、まるで恋するうら若き乙女のようである。

この世の不条理を知らぬかのような少女がそこにいた。

自分が息を呑んだ事に渋谷が気づいたのは、しばらくしてからであった。

コロコロと表情の変わるAに、戸狩の心を掴んだのも納得だと渋谷はひとりごつ。

「可笑しいですよね。自分でも、よくわからなくて、、、本当は、今日あの人に会うまで確信が持てませんでした。もしかしたら勘違いなんじゃないかって……

でも、声が聞こえて、玄弥さんを見て、、、勘違いじゃないってわかって嬉しかったんです」

微かに目元を潤ませるAを渋谷はどうすることもできずに見つめ返す。

渋谷が堪えきれず口を開きかけた時だった。

「あーー！！まぁま！」