ある極道のお嬢の話 (ページ34)

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私がいるのは、とある極道事務所の前。

そう、天羽組と死闘を繰り広げた天王寺組の事務所です。

と、来たはいいものの策は何もない。

正直、当たって砕けろ精神だったからなぁ。

今更になって恐怖心が湧き上がる。

「っ！」

その時、背後からとてつもない気配を感じました。

一歩でも動けば、いや息を吐けば殺されてしまいそうな気配。

崩れ落ちそうになる体をなんとか支えて、ゆっくりと後ろを向く。

そこには屈強な男が2人、白髪の男を守るようにしてこちらを睨んでいました。

私の記憶が正しければ、あの白髪の男が天王寺組の組長、三國貞治のはず。

「おー、えらい別嬪さんやなぁ。こんなむさ苦しいとこに、何のようや」

むこうは軽快に話しかけてきますが、私は声すら出せません。

なんなら、呼吸をするので精一杯。

「おぉ？なんや、天羽組のとこのお嬢ちゃんやないか」

私の顔をじっと見ていた三國さんがそう言った。

なぜ私を知ってるのか、なんて聞かなくてもわかるか……

私は細く息を吐いて、気持ちを整えた。

「仰る通り、私は天羽組元若頭、阿久津敏朗の娘、阿久津Aです。

三國貞治さん、ですか」

「あぁ、そんで俺に何かようかな」

「お願いがあります。10分、いえ5分で構いません。玄弥さんと話をさせてくれませんか」

頭を下げたことに驚いたのか、出るはずのない名前が出て警戒しているのか、なかなか返事が返ってこない。

幸か不幸か、教師という仕事柄頭を下げるのには慣れているけれど今は桁違いに心臓が音を立てている。

「若い女の子に、頭下げさせるんは心痛いわ。とりあえず頭上げ」

そう言うと、三國さんはスッと横を通り過ぎ事務所へと入ってしまった。

(やっぱり、ダメだよね…)

落胆して帰ろうとしていると、三國さんに不思議そうな声で呼び止められた。

「なんや、入らへんの？」

「え？」

「戸狩が帰ってくるまで外で待たせとくわけには行かへんやろ。中で待っとき」

そう笑顔で返され、私は困惑しながらも事務所へと歩を進めた。