ある極道のお嬢の話 (ページ29)

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数日後、天羽組は若頭“阿久津敏朗”の葬儀を秘密裏に行うことになった。

Aはあの日以降、抜け殻のような状態で息子の世話もままならなくなった。

このままでは幼い息子は命を落とすと判断され、地方にいる天羽京子の元に預けられることになった。

その時でさえ、Aは何の反応も見せなかった。

刻々と式が進み、Aの番になった。

彼女は無表情のまま、棺の前に行くと何を喋ることもなく花とマフラーを棺の中に入れると、また自席に戻った。

結局、葬儀を通して彼女が涙を流すことはなかった。

数日後、小峠が箱を持ってAの部屋を訪れた。

数回ノックするが、返事は返ってこない。

失礼します、と声をかけ小峠は空虚を見つめるAの前に座った。

「お嬢、カシラが帰ってきましたよ」

そう言って、阿久津敏朗の骨が入った箱を差し出す。

Aはゆっくりと箱に視線を持っていった。

「おとうさん」

数日ぶりに声を出したせいか、彼女の声は僅かに掠れていた。

次の瞬間、ポトリと箱の上に水が滴る。

「おとうさん、、、おとうさん、、、」

幼子が親に縋るような声。

Aの瞳からぼとり、ぼとりと涙が列をなして落ちていく。

それまでの日々を思い出したかのように、防波堤を失った涙が流れていく。

とうとう、Aは絶叫した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、、、おとうさん、、、ごめんなさい」

何度も父を呼び、謝罪を繰り返す。

父であった箱を抱きしめ、身体を縮こめ、Aはそう繰り返す。

「ごめんなさい」