その18 ページ18
広間、台所、風呂場。
この建物は本当に大きい。しかも何人もが共同生活を営んでいる。
私の手を引く青年は嬉々とした様子で案内を続け、最後にとある部屋へ連れてきた。
見渡すと、木刀が並べられている。恐らく鍛錬か何かをする場所なんだろう。
「ここは鍛錬場だ。どうだ？一度俺と勝負しようじゃないか」
「遠慮しておきます、怪我でもさせてしまったらたいへんですから」
私がそういうと、彼は片眉を上げ「へぇ」と笑う。
「随分と余裕そうじゃないか、言っておくが俺だってそこそこ鍛錬を積んでる上級者だぜ」
「脳ある鷹は爪を隠すと言いますけど」
「きみ......結構言う時は言うよな」
「鍛錬のお相手をするくらいなら忍術でも披露した方が＿＿」
そこまで言ったところで、「やってしまった」と後悔する。
彼は私のその言葉を聞いた瞬間、
「忍術？！どんなやつだ？！！
やっぱり分身とかできるのか？！」
「そんな可愛いもんじゃないです！」
「わかった。鍛錬はやめておいて君のその忍術とやらを見せてもらおう」
どこか上から目線なのが気に食わないが、私は大人しく一つやってみせることにした。
「いいですか、一応誰にも言わないようにしてください」
こういうのは、いろいろな人に知られてしまうと後々困る。
私は脇差の刀身を少しだけ静かに出し、腕を後ろで組んだ。
「では、ここにいる人達の名前を一人ずつ声に出していって下さい」
「？....あぁ、わかった。」
何をしようとしているのかわからない、というような表情の青年は、一人一人の名前をあげていった。
簡単に覚えられそうな名前は普通に頭の中に刷り込み、難しそうだったり少し複雑な名前が出たときに、腕に少しずつ傷をつける。
これは不忘の術というもので、後で自分でつけた傷を見て記憶した事柄を思い出すという記憶術である。
先程少しだけ出した刃の部分で、手首から肘にかけて小さな傷をつけていく。
すると、途中で彼はピタリと声に出すのをやめる。
「＿＿＿おい、腕を見せてみろ」
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作者名：にわ | 作成日時：2020年2月7日 19時
