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嗚呼、本当に退屈でした。
思ってもいないことを口に出して、かつりかつりとピンヒールから音を出すのが。
私はとても退屈で窮屈でした。
お父様もお母様も人に媚びを売ってばっかで。
【嗚呼、彼女が噂のポセイドン。】
【あんな野ざらしにされて誘拐されてもおかしくないわ。】
【海に愛された、違うか。海を愛した神様。】
【嗚呼！麗しき令嬢！どうか私と！】
いいえ、結構ですわ。
ああ、ああ！！！
誰も私を見て下さらないの。私はポセイドンではありませぬ！
彼女達のように、かたりかたりとテンポの良い淡々とした舞曲を踊りたいだけなのに！
私の足はヒレではなく、二足歩行のただの人間の足なのに！
「…お嬢さん。」
ふわりと頭に落ちてきた声でした。
落ち着く声は、私の顔をあげるのにピッタリでした。
「どうか俺とワルツを。」
『いいえ。結構ですわ。どうせ貴方も海が欲しいだけの男。』
「海など欲しくはありません。
貴方の心が欲しいのです。」
胸がとくりとひとりでに踊り始めるのです。
彼の言ってることが真なのかも分からないのに、私は手を取ろうとしたのです。
綺麗な茶髪をなびかせながら目の前の彼は笑うのです。
『…ねぇ、お名前は？』
「シャオロン、と申します。」
「A様、ほら手を取って、」
彼の手は柔らかくまるで海を握っているかのようでした。
手を取った瞬間、周りの不必要な雑音が全て消えて、2人で海に潜ったようでした。
私が口を開くと空気が欲しがるように。息が苦しくなるように。
『ねぇ、シャオロン。不思議ね、』
『私も貴方の心が欲しいみたい。』
ハッピーエンドまでの針が動きはじめる
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作者名：かわ | 作成日時：2020年6月10日 10時
