祝いと別れのステーキ ページ42
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そして中原さんが家に漸く帰って来たのは
2週間近く経ってからだった。
何があったかは聞かないし聞けないけれど、
中原さんがまた一歩、
遠いところへ行ってしまった様に見えた。
「ッあァァァァ……
久しぶりの家は最高だな…」
『それなら、何よりです。』
私は夕飯の支度をしながら、
ソファでくつろいでいる中原さんを横目で見る。
____ついにこの日がきてしまった。
帰ってくるのは待ち遠しかったけれど、
同時に恐ろしくもあった。
言わなければならない、あのことを。
『ふぅ……』
もう心は決めていた。
今では逆に良かったと思っている、
2週間の猶予があって。
多分、そうじゃなかったら、
言う勇気が出なかった。
『できました、今日は和牛のステーキです。』
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「やっぱ、うンめェなァ!Aのメシは。
このステーキッつーのは…」
『はい、お仕事がひと段落した記念ということで、
少し奮発してしまいました。
……結局は中也さんのお金なのですが。』
「ッまァそうだけどよォ。
A、いッつも俺に気ィ使ッて
なるべく安く済ませてンだろ。
こンな日くらい節約はよそうぜ、な?」
そう言う中原さんの笑顔を久しぶりに見るだけで、
簡単に私の心はぐらついてしまう。
ダメだ、言わないと。言えなくなる前に。
「ァ、そう云えばメシ食い終わッた後に話が」
『中也さん!』
思わず立ち上がってしまう。
そして驚いているであろう中原さんの顔を見ずに
ポケットからあるものを取り出した。
「手前、此れは…」
『契約書3条、27項。
" 甲は乙の仕事の妨げとなる行為をしないこと。
これを破った場合、
甲は自分から辞職する意を伝えること。"
契約書にはこの1年間家政婦としてお仕えする中で、
守るべきことが記されています。』
中原さんが口を挟む前に。はやく、はやく。
『私はヨコハマの街が混沌に陥った際、
指揮をしなければならない中原さんを
無理やり自宅まで来させ、
お仕事の邪魔をしてしまいました。』
「其れはAが呼んだンじゃなくて、俺がッ、」
『これは重大な契約違反にあたります!!!!』
初めて。中原さんに対して大声を出した。
『私の、話を聞いてくれますか…?』
これは、私の、本当の過去のお話。
『今まで、中原さんに嘘をついていました。
私はエリス嬢のお世話係になる前は、
小さな洋食屋のアルバイトだったんです_____
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mikky - ギャグ線高くて面白かったです!!ニヤニヤ止まりませんでした! (2021年6月25日 16時) (レス) id: 0c37dc8e40 (このIDを非表示/違反報告)
アヤカ★(プロフ) - ましろさん» 更新頑張ってください。楽しみにしてます。 (2020年5月9日 21時) (レス) id: 65fd904e63 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - アヤカ★さん» コメントありがとうございます!ずーーーっと2人に幸せになって欲しかったのでようやくかけて安心しました(T_T)コメントたくさんいただけて嬉しかったです!残り1話ですが最後まで宜しくお願い致します♪♪ (2020年5月9日 20時) (レス) id: f8809b1e73 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - 嘘吐き姫さん» コメントありがとうございます!バラの本数まで本当は描きたかったですね笑最後までお付き合い頂きましてありがとうございました(T_T)!! (2020年5月9日 20時) (レス) id: f8809b1e73 (このIDを非表示/違反報告)
アヤカ★(プロフ) - 完結おめでとうございます。ハッピーエンド感動しました。 (2020年5月8日 18時) (レス) id: 65fd904e63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ | 作成日時:2017年8月20日 11時