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「新華はうちの事務所の新人声優なのですが、身長や髪の長さが朝日奈さんと似ていることに加え、朝日奈とよく共演していることもあり、インターネット上では相手は新華なのではと既に噂になっています。
多少は世間からも受け入れられるでしょうし、週刊誌から追われるという件に対してもこちらで対応ができます。
この先も同じようなことがあれば、こちらの方から新華だと発表させていただこうかと思うのですが……どうですか?」
そう言って近藤さんがこちらに向けた瞳には凄みがあり、これは問いかけではなく決定事項を述べているだけなのだと察する。
そうだ。
今まで意識することは少なくなかったのに、忘れていた。
私は一般人。
彼は芸能人。
もう、あの頃のただの友人ではない。
遠い人だった。
それに、写真の女性が私だと世間に発表して何になるのだろう。
近藤さんの言うとおり、もしかしたら週刊誌の記者に追われることもあるかもしれない。
もしかしたら、梓くんの評判に傷が付くことだってあるかもしれない。
良いことが何もないことなんて少し考えればすぐに分かった。
それなら、新華さんには申し訳ないが写真の女性は彼女だと発表してもらった方が何倍も良いはず。
新華さんはとても可愛らしい女性だ。
まだ新人だと言っていたが、きっと人気もあるのだろう。
そんな新華さんが梓くんの彼女であるのならば、祝福の声だってあるはず。
そうしたら誰も傷つかないのではないか。
「はい、わかりました。……新華さん、すみません。お願い、します。」
「はい。」
一言、そう告げて力強く頷いた彼女を見て胸が痛んだ。
きっとこれは罪悪感。
私が部屋に入ってから出るまで、梓くんは一度も口を開くことはなかった。
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作者名:にじまつ | 作成日時:2020年4月16日 12時