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―――――ではなく、額だった。
「熱は……ないようだけど。」
ねつ?
固く閉じた瞼をおそるおそる開けると、視界一面に映る梓くんの顔。
「ひゃぁあ……!が、顔面の暴力!」
思わずそんな言葉を叫びながら、飛び退くように距離を取る。
な、なんで……。
なんでこんなに心臓が煩いの。
顔の熱が全身に広がっていって、身体をめぐる血液が沸騰しているよう。
なにこれ、おかしいよ。
今まで全然平気だったじゃない。
顔面の良さは昔からそうだから慣れているはずなのに。
なんで急に、こんな。
旅行から帰ってきてから、なんか変だ。
「もしかしてA、照れてる?」
そう言って梓くんは小さな笑みを浮かべる。
「……好きだよ。だからもっと意識して―――――」
ちゅっ……、と控えめなリップ音を奏でて彼の唇が私のそれに重なる。
あの日とは違って一度だけ、触れるようなキス。
優しい梓くんそのもの。
……わからない。
いつも見ている彼とあの日に一度だけ見せた彼、どっちが本当の梓くんなのか。
ドキドキが止まらないのはキスをされたからなのか、それともスキになってしまったからなのか。
わからない。
わかるのが、怖かった。
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作者名:にじまつ | 作成日時:2020年4月16日 12時