押してダメなら押し続けろ II《 Shoma.Uno 》

58. ページ8

昌磨.



「へ？」




もうすっかり言われ慣れてしまったその言葉。
見たこともないくらい緊張した表情だったから、何を言われるのかと……拍子抜けしながらも、「知ってるけど」と返すと、Aちゃんは分かりやすく落ち込んだ。




『そりゃあね……あれだけ毎日好き好き言ってたら昌磨くんも分からなくなるよね……それは私が悪かったですごめんなさい』




壁にもたれかかって三角座りをしたAちゃんは、自分に言い聞かせるように早口で呟いた。
小さな子供が拗ねているようなその姿に思わず吹き出すと、Aちゃんはまた不満そうに頬を膨らませる。




「いや、だって……俺ももう分からなくなるよ、どういう好きなのか」

『……こういう好き！』




急に立ち上がってズンズンと近付いてくるAちゃんにビビりながら後退りすると、そんな俺には構わずに更に攻めてくる。
日常生活でも、あの攻めの演技と同じような目をするのか……鋭い目つきに圧倒されかけた。

とんっ、と思っていたより優しい音で、なぜか逆壁ドンをされていることに気付く。




『……ううっ、やっぱ無理！かっこいい！』

「ええっ、」

『キスでもしたら意識してくれるかなって……』

「愛のないキスは嫌って言ってたの誰なの……もっと自分を大切にしなよ」




ぽんぽん、と頭を撫でてやると、「好き」とまた呟いて、俺の胸にぐりぐりと頭を押し付けた。

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