4話 ページ5
.
急いで辺りを見渡してみるも隠れられそうな場所はない。かと言ってわんちゃんを落ち着かせようと体勢を低くしたり「しーしー」と人差し指を口に当てたりしても一向に鳴き止まない。
(見事にしっかり躾られてるよー…!)
お利口なわんちゃんによーしよしと撫で回してあげたいところだが今はそれどころじゃない。
(そうだ、来た道戻ればいいんじゃんか!何で思いつかなかったんだろう)
わんちゃんの視界から外れさえすれば済んだものを、とんだ余計な時間を割いてしまった。
そうとなれば、と踵を返し全力でダッシュ…
しようと思ったところで、後方から声が聞こえた。
「ハヤテ?どうかしたの?」
ま ず い
心臓が縮み上がりそうな思いで、足音をなるべく立てないように逃げる。サッと物陰に隠れて上がった息を必死に押し殺しながら耳を澄ますと、どうやら私の存在には気づかなかった様子。まだ尚吠え続けるわんちゃんに「ご近所に迷惑でしょう」と注意をしていた。
ふぅ、と一呼吸いれ今のうちに退散しようと静かに歩み始める。
「…そこに誰かいるの?」
「…」
「隠れていないで出てきなさいな」
「…」
私は終始、焦りを通り越した無の状態で、ただただ女性の言葉に従ってゆっくりとした足取りで姿を見せた。
ボールを探している設定とか夢の中だとかそんなものとうに忘れて、怖くて怖くてずっと下を向きながら自分のつま先をじっと見つめる。
(余裕でバレてた…)
「あら、女の子じゃない」
「…か、勝手に敷地内に入ってしまって、本当にすみません…」
逃げようとした人間が何言ってんだって感じだけど、やっぱり悪いことをしたのは事実だしちゃんと謝らないと。
そんな思いでギュッと目を瞑り頭をより深く下げる。
「そんな、顔を上げてちょうだいよ。何か理由があるんでしょう?」
(理由…興味本位で歩いてみた、なんて)
でも、こんなに優しく声をかけてくれる女性に嘘をつくのはすごく心が痛む。それになんだか後ろめたさが残ってしまうような気もする。正直に言ってしまおう。
「、実は…」
意を決して顔を上げ、女性の顔を真っ直ぐ見据える。淡い桃色の着物を纏い髪を後ろでまとめた、私がよくよく知っている人。
ここにいるはずのない人。
あんなに吠えていたわんちゃんは、いつの間にか鳴き止んでいた。
73人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
*まめ丸*(プロフ) - 坂名つばめさん» いえいえ!!はい!更新ゆっくり少しずつ頑張ってください!!ファイトです!! (2019年7月23日 12時) (レス) id: 7b0adad536 (このIDを非表示/違反報告)
坂名つばめ(プロフ) - *まめ丸*さん» ありがとうございます〜その言葉が本当に励みになります!更新頑張ります! (2019年7月23日 12時) (レス) id: 72f167e803 (このIDを非表示/違反報告)
*まめ丸*(プロフ) - 初めまして!!この度見させて頂いて物凄くハマりました!!おかげで元気とワクワクを貰っています!!これからも頑張ってください!!(*´▽`*) (2019年7月23日 0時) (レス) id: 7b0adad536 (このIDを非表示/違反報告)
坂名つばめ(プロフ) - 自衛隊員さん» ありがとうございます〜!頻度上げられるよう頑張りますねヽ(^^)ノ (2018年12月6日 20時) (レス) id: 72f167e803 (このIDを非表示/違反報告)
自衛隊員(プロフ) - 合格、おめでとうございます!!更新を楽しみにしております!! (2018年12月5日 21時) (レス) id: 848cb8c477 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:坂名つばめ | 作成日時:2017年8月28日 3時