褒めてあげる ページ10
『…言わなくはなったねぇ。』
「んじゃまだ思ってはいるんだ。」
隙のない返し。ムッと顔を歪めれば「てつやは騙されるかも知れないけど、僕は騙されないよ。」と彼は目を細めた。
椅子から立ち上がった彼との目線はそう変わらなくて、トンっと軽く押されると、思わぬ衝撃にそのままソファにボスっと埋まった。
覆い被さるような体制の虫さん。『は。』と思わず出た声は、動揺だった。
「僕は思い出さなくていいと思うよ。実際生活に支障はないし、僕らとも新しい関係を築けてる。Aの中の苦しい過去が混ざった記憶なんて、思い出さなくていい。」
甘い言葉だった。今の私にとってその言葉は全てを肯定してくれているようで、けれど同時にそれは全てを投げ出すのと同じだった。
『意地悪だよ、それは。』
「…いまさら？」
「僕は前から意地悪だよ。」と口にした虫さん。少し歪めた顔は、どうも苦しそうだった。
『虫さんさ、記憶無くす前私に、今の彼女いないときに惚れてたりしたの？』
「…Aのほうが意地悪だ。」
『でも、今は彼女が一番でしょ？』
「当たり前。」
『じゃあ、これは浮気だよ。』
軽く彼の胸を押すと案外簡単に離れた体。はぁあ、と大きなため息は、今度は虫さんからだった。
『虫さん、昔私に告白したことあるんだ。だから思い出さなくていいなんて言ったの？ズルすぎ。』
「わーわー、素晴らしい推理だこと。それも理由に入ってない訳じゃないけど、さっきのも本心だよ。」
『知ってる。』
互いに苦笑する。
『…やっぱ、メキシコから帰ってきたら褒めてもらおうかな。』
驚いたように目を開く虫さん。「なに？心が子供になった？」といつもの調子で口にする虫さんに『違うし。』と笑う。
『いいでしょ。私、頑張ってるやん。いろいろ。』
「気づかないフリすんのも大変だね。」
虫さんはきっとてつやの気持ちも、りょう君の気持ちも、としみつ君の気持ち気づいてる。
『だから帰ってきたら、頭撫でて。』
「頭くらいいつでも撫でてあげるよ。」
よしよし、と優しく撫でられる頭。
『今やったら意味ないじゃん。』
「まあこれは今までの分って事で。」
心地がよかったのか段々と重くなっていく瞼。「あ、てかさっき私って言ったね。」と聞こえた虫さんの声を最後に、私は睡魔に身を任せた。
＿＿
zawawa-miyuさんリク
メキシコへ行く前の日の虫さんとAの話
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奈々(プロフ) - 初めまして！この作品を見返していて、やっぱりこの作品が好きだなぁと思いコメントさせてもらいました！特に風邪引きさんの話が大好きです！！ヒーローの願望も読ませていただいてます！いつかこの作品が更新されるのを楽しみにしています！ (2020年2月8日 4時) (
レス) id: 5a1230bb7d (このIDを非表示/違反報告)
ヒガシ(プロフ) - 大好きな作品ですので、いつか更新再開されるのを楽しみに待っております。 (2019年3月30日 9時) (レス) id: 34554b4b1a (このIDを非表示/違反報告)
あ - 更新停止ということでいいのでしょうか、、？？ (2019年2月18日 13時) (レス) id: 402ed1631b (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ゆいさん» 更新長らくお待たせしてしまい、誤解を生んでしまったようで申し訳ありません。この作品はまだ続きます。誰が彼氏か、是非最終回までお待ち下さい(*^^*)コメントありがとうございました！ (2019年1月8日 23時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - パラディさん» ありがとうございます(*^^*)とても励みになりました。更新も増えていくと思うので、是非明日からもこの作品をよろしくおねがいします。わざわざコメントありがとうございました！ (2019年1月8日 23時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しーちゃん（える）
x他1人 | 作成日時：2018年6月16日 18時
