Stars Ⅰ -短編集- (ページ9)

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寝顔 - R.H ページ9

「太陽がぽかぽかで、温かくて気持ちいいね」椅子に身体を預けるように力を抜き、目を瞑り口を綻ばせながら良亮は言った。

私たちは電車に揺られていた。この車両には私たち以外の乗客はほとんどおらず、貸切に近い状態だ。どこに行くわけでもなく、なんとなく、晴れていたから遠出をしてみようか、と電車に乗り込んだ。結果、そのなんとなく取った行動は大正解だった。

「そうだね」彼の真似をすると、太陽の温かさがより感じられて、本当に気持ちいい。このまま眠ってしまいそうだった。

しばらくそうしていると左肩に突然、重みを感じた。左肩を見ると彼の頭が乗っかっていた。どうやら彼が眠ってしまい、電車が揺れた勢いで彼の頭が私の肩に乗ったらしい。子供のような寝顔で眠る彼の、あまりの無防備さに顔を綻ばせる。とても愛しい寝顔だった。

でも寝起きは最悪だろうな、と昼寝した彼を起こしたときの事を思い出す。続けざまに、彼自身も寝起き最悪だから、と言っていた事を思い出し小さく笑い声が口からこぼれた。

車両が貸切に近い状態だと言えども、貸切ではない。しかもこんなにも静かな場所だ、5mほど離れた座席に座っていたおじいさんが何事かとこちらに一瞥をくれた。けれど、それには気がつかなかったふりをし彼の寝顔に視線を戻す。相変わらず彼は眠っている。そのことに少し寂しさを覚えつつも、やはり愛しさと幸福感で私は満ちていた。

そろそろ電車も終点だ。終点を知らせる車内アナウンスが流れ始める。結局、彼はあれから一度も起きる事なく私の肩に頭を乗せ、寝ていた。彼も起こさなくては、と身体を掴み揺さぶってみる。

「良亮、起きて。終点だよ」と、優しく声もかけた。が、起きない。これはまずい、と思い強引に起こそうとするも全く起きない。身体を揺さぶったって、声をかけたって起きやしない。起きてよ、と何度も繰り返すが起きてはくれない。

これ以上どうしようもなく、諦めて窓の外を見た。もう電車が止まりそうだ。

「良亮が起きてくれないと淋しくなっちゃうよ」彼が起きないかと独り言のように言う。こんな言葉で起きるのなら、さっきまでの私の頑張りはなんだったのか、と苦笑いしてしまう。

「んー、どうか、したの？」彼は起きてしまった。眠たそうに目を擦りながらも、彼は起きている。さっきまでの私の頑張りはなんだったのか。