Stars Ⅰ -短編集- (ページ16)

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プロポーズ - R.H ページ16

「結婚しよ」

小洒落たホテルレストランでの夕食の帰り、繁華街の中心部。そこに、良亮は突然、現れこう言った。大きな花束を抱え、タキシードまで着ている。全く思考が追いつかない。

今日、彼はここには来ないはずだった。たまには美味しいご飯でも食べに行こう、とお店の予約をしたものの当日になって、急な仕事が入っちゃって行けない、と彼から連絡があった。俺の代わりにこいつと食べに行って、と私が彼に対する不満をこぼすのを見越してか親友の塚田くんまで差し出した。

良いように使われる塚田くんも悲惨だな、と他人事のように思いながらも、彼への愚痴を聞いてもらうつもりで塚田くんとレストランへ行き、一通り料理も食べ終え、ゆっくりと彼の愚痴でも聞いてもらい、レストランを出た。

その矢先だった。

なおも混乱していると、良亮は私の前に跪き、タキシードのポケットに手を伸ばした。そっとポケットから取り出した手には指輪が握られていた。

良亮はその指輪を私に差し出し、もう一度その言葉を言う。

「僕と結婚してください」

彼の言うことが、やっと理解できた。

街行く人は、こちらを気にかける素ぶりも見せず立ち去っていく。まるで、ふたりだけの世界がそこに存在しているみたいだ。

「ありがとう」一言そう言うのが精一杯だった。これ以上、幸せなことが存在するのか、と涙が零れぬよう必死になって目を拭く。けれど溢れる涙は止まらない。

彼は手に持つ指輪をそっと、私の指にはめ、手を握った。そして、私の手を引きながら歩き出す。

やがて、まわりの時は完全に止まり、ふたりだけの世界がやってくる。

今宵、結ばれたふたりだけの世界がやってくる。