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臆病な二人 Shogo.Y ページ47

仕事が終わり、ヘトヘトになった足で向かっているのはとあるバー。




お酒が飲みたいから、というよりは、会いたい人がいるから。




けれど、もう間に合わないかもしれない。




上司に半ば強引に押し付けられた仕事を終わらせたのが閉店時間の20分前。



会社からバーまでは徒歩30分かかる。



それでも諦めきれなくて、なんとか足を動かした。




信号待ちをしながら時計を確認すれば、もう閉店時間は過ぎていた。




やっぱり間に合わなかった。




彼に会うための絶対条件として、バーに入る必要がある。





だからもう今週は会えないや。




私の週末の楽しみは、上司に奪われたと言っても過言ではない。





だってどうせあの上司は不倫相手と会うために仕事を捲りつけてきたのだから。




それが理由で色んな部下に残業をさせているというのは、会社では有名な噂話。




私だって彼に会うために急いで自分の仕事を終わらせたと言うのに。




残業さえなければ会えたのに。




一緒にいられたのに。




私の1週間の頑張りは一体なんだったのだろうとすら思う。




社会人になって月日が経つにつれてどんどん仕事が辛くなっていった。



それでも頑張れているのは、彼に会えるから。




けれどこれじゃあ頑張った意味がない。




彼に少しでも綺麗だと思われたくていつもより時間をかけたメイクも、意味がない。


彼に会えないのなら、全て無駄。



そんなことを考えていたときだった。




ぽつり、ぽつりと雫が降ってきて、それは次第に激しくなっていった。




生憎傘なんて持っていない。




だけど今日は週末。




濡れたところで明日に迷惑はかからない。




信号が青になった。




頬を伝う何かに気づかないフリをして顔を上げると、向こう側に人影が見えた。



きっとあの人は私を不審がるだろう。




なるべく顔を見ないように俯きながら信号を渡り切ると、突然雨が止んだ。




いや、正確には頭上で雨が弾かれる音がした。





「よかった、こんなところにいたんやな。」




そして、誰かの声もした。




聞き慣れた、落ち着いた声。



私が大好きな、安心する声。




雨音よりも鮮明に聞こえてくるその音の持ち主の正体なんてすぐにわかった。




『彰吾、さん、?』




「全然来ないから心配になって探しにきた。ほら、行こ。」





私の手を引く彼は、紛れもなく私が会いたくてたまらなかった人。





バーテンダーの彰吾さんだった。

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作者名:美夜 | 作成日時:2023年10月15日 22時

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