大切で大好きな ページ7
場違いにも喧嘩を始めるまなかと光に、痴話喧嘩と持て囃すクラスメイト。唯一静かな窓際の少年が黒板近くを見て何かを発しようと口を開きかけた時、パンッとひとつ、音の良い手拍子がその場を不意に支配した。音の元は、Aだった。
「苗字Aです。どうも!趣味はウミウシ探しです!」
口元に手を添えると、Aは笑顔で自己の紹介を始めた。
「ぷ……いかにも海のヤツらの趣味じゃん」
「やだー、ウミウシって……魚くさーい」
案の定笑うクラスメイトの言葉に、傍から見守るちさきの目が潤んでいく。要は寄り添うようにちさきの隣に立ち、見守ることに我慢の限界を迎えたまなかは、思わずAに抱きついた。
「えっと、さっきから色々と………塩?磯?魚?分かんないけど、臭くてゴメンね。地上の人は慣れてないよね」
まなかの頭をひと撫でした後、Aは今度は少し眉を下げて、声を落としてそう告げた。庇護欲をそそられる鈍感な言葉選びと悲しげな表情に、一部の男子が少しばかり揺らいだのは余談。
……しかしAにとって、ここはチャンスであった。
「でもちょっと、悲しいな」
「うっ」
あまりにも反抗のないAの態度に、とうとう女子すら罪悪感で呻き声をあげる。
「皆が言う魚臭いこの匂いね、Aは好きなんだ。………大切で大好きな場所の香り。皆はソーユーのないの?」
「………………」
「そっか、地上の人って結構淡白なんだ」
重苦しい空気の中で光だけが堂々と、そして内心でAがほくそ笑んでいた。
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湊(プロフ) - 続きが気になります。更新待ってます。 (1月20日 22時) (レス) id: 080f4a0e49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パスカル | 作成日時:2021年8月11日 15時