「かなわない」 ページ15
「A!……う」
「ちさき!こっち」
倒れかけたちさきを要が介抱して、二人は海へとくだった。
「……………行かなきゃ。A、水すら浴びないまま行っちゃったの……!」
「Aは僕がすぐ追うよ。ちさきは休んでて」
そう宥められて、ちさきは諦めた顔で瞳を閉じる。光や要の気遣いは、今のちさきにとって重荷そのものだった。優しさはこんなにも鋭い。ちさきはずっと守られてばかりだった。
「………なんか、かなわないなあ……」
「ちさき?」
Aを探そうとした要の歩みが止む。「敵わない」ちさきのそれが誰に向けられたものなのか、要は何となく、解る。
「………」
「………傍から見てると、光とちさきのが夫婦って感じに見えるけどね。まなかとAが二人の子供って感じ」
「……え?」
海のようなちさきの目が、おどけた要の表情を映し出した。
「それにさ、このままもしもまなかとA居なくなったら、光の隣に居るのはちさきでしょ?」
「こんな時に、冗談でもやめて!!!」
ちさきは、泣いていた。想像して背筋が凍るようだった。もしも仮に、ちさきが心の奥底でそれを望んでいたのなら、今頃ちさきはエナを枯らしてまでまなかを探してはいないのだ。
そして、まさかそんな顔されるとは思わなかった要は、困惑がありありと浮かんだ表情をちさきに向けていた。
「っ……ちさき、ごめん」
「私は、二人が大切で……!」
肩を震わせるちさきに、要が目を細めた。
「……色々面倒なんだね」
「そうよ、面倒なのっ……!」
ちさきが要から顔を背けたその時、顔を向けた方から、突如水飛沫が舞い上がる。
「どしゃーんっ!」
「きゃ!?!」
漏れなくちさきの顔にも土砂降りの水がぶつかった。恐る恐る目を開くと、そこには先程見送ったはずのAの姿があった。そして、その辺りにはいくつものペットボトルが浮かび上がる。
「これ……空……?」
「そう、サヤマート行ってあかりちゃんから貰った。これに水入れて、光追いかけて、ぶっかける!!!」
水を入れていき、その容器を持って、Aは素早く階段を登る。焦った要がAを引き留めた。
「光も、まなかだって今どこかわからないのにどうするの?」
「解ってないね〜、要。何事も読まなきゃ。………ちさきのことよろしくね。ちさきも、今日は休んで。エナの枯れって結構次の日まで引き摺ることあるから」
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湊(プロフ) - 続きが気になります。更新待ってます。 (1月20日 22時) (レス) id: 080f4a0e49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パスカル | 作成日時:2021年8月11日 15時