1話 海と大地のまんなかに ページ1
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個室には、鼻歌混じりに軽やかな一回転を披露する少女が一人。その動きに合わせて短いスカートはひらり踊る。少女は鏡越しに自身の姿を見つめては、微笑を顔に作りあげた。そして少女は後に、そのまま軽快な足取りで家を飛び出したのだった。
「いってきまーす」
その声は少しばかりか跳ね上がっていたように思える。街を駆ける少女には緊張の色が見えた。固く閉ざされた口元。バクバクと鼓動する心臓。なんてったって今日は少女──苗字Aと、彼女の幼馴染たちの転校生活初日である。
──かつて、全ての人間は海の中で呼吸をし、生活を営んでいたという。しかし、ある時を境として陸で生きることを選んだ人達が現れ、やがて人の世界は海と陸に分かれた。
海の中に存在している村落、汐鹿生。そこがAたちの生きる世界だ。
「うっ………今日、塩っぽいな〜?」
海中特有の塩分濃度の差に首を傾げていると、先程のAの独り言に反応するかのような笑い声が耳を掠めた。
「………あ」
いつの間にか進んでいた足元の先に目を向けると、馴染みのある顔がそこに居た。
「要!それにちさきも。おはよ」
「おはよう、A」
高くに結んだサイドテールがチャームポイントのちさき。
「おはよう。あ、ちなみに塩っぽいの当たり。また予報見てなかったんだ」
それと、整った中性的な顔立ちを持つ要の、二人だ。
「あはは、どうせ誰かしら予報見てるだろうから聞けばいいかなって……」
「Aらしいね」
どちらとも大人びた性格だけれど、Aと年齢の変わらない幼馴染たちである。
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湊(プロフ) - 続きが気になります。更新待ってます。 (1月20日 22時) (レス) id: 080f4a0e49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パスカル | 作成日時:2021年8月11日 15時