その兎は恋をする【呪術廻戦】

愛されて ページ42

　
　
　
　
　
　
百鬼夜行から数日、大晦日の前日。
私はその日初めて目が覚めた。
病院のベッド、既に治療済みの体は怠さも無く満身創痍のあの日とは違い全快していた。最高。


淡い水色の病院着を少しばかりはだけさせて目でしっかりと確認するが傷跡ひとつなく、流石は家入先生だと感嘆の息をもらす。


私は反転術式を扱えないため、百鬼夜行のように痛覚遮断のとんでもドーピングで無理やり体を動かすことが昔、だがよくあって。
やはり反転術式も視野に入れるべきかと思いながらうんうん唸っているとふと向こうから何かががちゃんと割れる音がした。



『……乙骨』

「ちちち違うの！えぇとえぇ〜とその、えと、見てないから！！」

『いや、別にいいんだけどさ。花瓶、壊れちゃったよ？』



床に指をさしてやると彼はうるさく叫ぶ。
本当はよくないんだが、と思いながら身なりを整える。元より化粧などは施していないがそれでも包帯だらけの顔なんて恥ずかしい。



「ていうか、よかったぁ…Aちゃん、やっと起きた……！」

『うん、何日たったの？』

「6日間」



何だ大したことない、とため息をつけば何だじゃないよと再び騒ぐ乙骨。病院だぞ。
ま、それだけ経ってれば傷も癒えるわな。



「本当にずっと、生きた心地がしなかった…」



私の手を両手で包み込んで震える声でそう言う。
少し濡れているのは花瓶の中身を入れ替えて、その上でたった今落としたからだろう。冷たい。



『大丈夫だよ、私が死んでも困るのは上のヤツらだけさ。誰も悲しまないだろ』



私は誰かが悲しんだり辛い死は絶対的に嫌いなんだ、と言えば彼は食い気味にこう言った。



「悲しむよ。僕だけじゃない。真希さんもパンダくんも狗巻くんも五条先生も伊地知さんも！！」

『それは共通の知り合いの名前を呼んでいるだけじゃないか？』

「それに…里香ちゃんも」



最後の言葉に目を見開いて、夢の中で彼女と話したことをぼんやりと思い出す。
太陽のような笑顔のあの少女が、果たして本当に悲しむのだろうか。もしそれが違ったとしても、ほんのわずかでも可能性があるのなら。



『それは…嫌、だな』



きらきらした瞳を向けてくる彼から目を逸らしてもごもごと話す。
ふっと笑う彼の顔を見たらきっと駄目になる。




「ねぇAちゃん、君のことが好きです」




は？と唖然として彼の顔を見る。
柔らかく微笑むその表情の中に微かな緊張が見え隠れしていた。



　
　
　
　
　

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