愛 ページ31
『お、お待たせ…しまし、た』
からんからんと鈴の音が響く小さな喫茶店。
実は行きつけで、この店を指定したのも私だ。
マスターは客がいても颯爽と奥に引っ込んで趣味の刺繍をする不思議さんなので実家である後ろから顔を覗かせて私の顔を確認すると「いらっしゃい」とだけ言ってすぐに引っ込んでしまった。
元よりなにか飲むつもりは無かった、あっても勝手にキッチンに入ってやりくりしてくれと言われる程に打ち解けているので問題は無い。
テーブル席は5席、向かい合わせで座る度胸がなかったのかカウンター席の隅にちょこんと座るたった1人の客の背を目に止める。
彼女は先程の私の声に反応してゆるりと振り返り、すぐに顔を明るくする。
こんな反応をされる存在でも関係でも無いのだが、と少々複雑に思いながら彼女と丸椅子をひとつ挟んだ席に座る。
『コーヒー、おかわりいりますか?』
ふと、彼女の手元にあるコーヒーカップの中身が空なのを見て自然とそう話しかける。
戸惑い気味に頷いた彼女のそれを流れるように取ってキッチンに入る。
体に染み付いたその動きに彼女も驚いたようだ。
「……ここで働いているの?」
『いいえ、マスターと仲がいいだけでお給金は頂いていません』
マスターこだわりの道具達を用いてコーヒーを入れ直す。好みの味付けなど知らないが何となくでやってしまおう。
ごぽごぽとコーヒーが沸く音だけがする店内で恐る恐ると言ったふうに彼女は……母は再び問いかけてくる。
「どうしてこの喫茶店を選んだの?お気に入り?」
『…まぁ、そうとも言えますが1番は人が滅多に来ないし来たとしても変わった客ばかりなので話を聞かれても問題ないと思いましたので』
熱いコーヒーをカップに注ぎ込んでソーサーの上にかちゃりと置き、母の前に出す。
ありがとう、と小さく微笑んだその顔を見てふん、と鼻を鳴らしてどかりと座る。
『で、私が家を出た後ちゃんと暮らせていたんですか?』
「えぇ、何とかね…。あの時どれだけあなたに頼りきっていたか、ようやくわかった。……自分じゃ何も、出来なかったんだもの」
でしょうね、と乾き笑いを浮かべる。
父がいた頃は祖母が、いなくなってからは私が家事全般を補っていた。というかやらざるを得なかった。何と言ってもこの女、ドがつくほどの不器用。目も当てられないその様だ。
最も、父がいたかなど覚えてもいないが。
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甘蜜蜜華(精神安定剤())(プロフ) - しし。さん» はい!発作です!!嬉しがってくれて嬉しいです!(?)更新頑張ってください! (2021年2月9日 16時) (レス) id: 80388bac17 (このIDを非表示/違反報告)
しし。(プロフ) - 甘蜜蜜華(精神安定剤())さん» ほ、発作的な何かが起こってらっしゃる.....?好きなんてそんな、とっても嬉しいですありがとうございます!!! (2021年2月9日 6時) (レス) id: 5f5d2e19fb (このIDを非表示/違反報告)
甘蜜蜜華(精神安定剤())(プロフ) - ひゃぁぁぁ!!!!!!好きです!もうっ!……ああっ!だいすき!! (2021年2月8日 22時) (レス) id: 80388bac17 (このIDを非表示/違反報告)
しし。(プロフ) - Arisuさん» うばぁ〜!!嬉しいですありがたや〜。乙骨先輩良いですよね...まじでリアコ製造機。大好きって言って頂きありがとうございます!!!もうしばらくこの作品にご付き合いくださ〜い!!!!! (2021年1月22日 11時) (レス) id: 5f5d2e19fb (このIDを非表示/違反報告)
Arisu(プロフ) - この作品大好きです!私も乙骨くん推しなんですよ!もう作者様様です! (2021年1月22日 7時) (レス) id: 5506a0fa2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しし。 | 作成日時:2021年1月1日 11時